(57)ブラジルにある原子力発電所

風光明媚なアングラの青い海と緑の自然の狭間でひっそりと息づくアングラ原発2


東北関東大震災の影響でダメージを受けた、福島原子力発電所による環境汚染について、ブラジル(を含む世界中)のマスコミが注目し、連日その状況を報道している。

実は、ブラジルにも原子力発電所が存在する。場所は、リオ・デ・ジャネイロ州随一の風光明媚な場所として知られる、海辺の町、アングラ・ドス・レイス市(参照:「47」カリオッカの別荘地・アングラ・ドス・レイス)である。
波静かなイーリャ・グランデ湾の澄み切った海には、大小365の美しい島々が浮かんでおり、海に面して別荘が立ち並び、訪れる観光客が引きも切らない。
その湾の南端、突き出た半島によってイーリャ・グランデ湾から視界を遮られた形になっているイタオルナ海岸に、あたかも人々の目からその姿を隠すように、原子力発電所の異端児のような白い建物が、美しい自然の中にひっそりとたたずんでいる。

イグアスー瀑布の近くにある、世界第2のイタイプー発電所

1972年に着工され1984年に操業を開始したアングラ1号に次いで、1996年にはアングラ2号が発電業務をスタートさせ、発電能力は双方合わせて2,000MWhで、ブラジル消費電力の4%を担っている。

元来、水力発電が主力で、ダムによる発電にさらなる潜在能力を有しているブラジルでは、もともと原発建設に対しては、反対意見が多かったにも関わらず、当時の政府が半ば強引に建設に踏み切った(その背景には多分に不純な要素があると噂された)といういきさつもあって、今回の福島原発の災害で、ふたたび原発批判の世論がむしかえされ、政府は国民の矢面に立たされている。
ブラジル原発局は、アングラ発電所が導入したシステムは、世界にある440基の原発の65%が採用しているPWR式で、25%しか採用していない福島原発のBWP式に比べ、その冷却システムの違いから遥かに安全性が高いと説明しているが、国民の納得を得るには至っておらず、2015年に完成を予定されているアングラ3号の工事の継続が危ぶまれている。

一方、多くの大河を有するブラジルでは、現在全国158カ所で水力発電ダムが稼働しており、さらに9ヶ所で建設が進行中で、他に26ヶ所の新規建設が決まっている。

世界3番目のベロ・モンテ発電所の建設が決まったシングー河

現在における発電能力は、カナダ、USAに次いで世界第3位を誇っており、国内消費電力の90%を賄っている。
近年、経済発展が目覚ましいブラジルでは、さらなる消費増大を見込んで、北部のパラー州を縦断するシングー河に、中国の三峡ダム、ブラジル南部のイタイプー・ダムに次いで、世界第3の規模となる、11,233MWhの発電能力を有するベロ・モンテ・ダムの建設が、現政府によって新たな決定を見たばかりである。

マスコミで報道される、今回の日本の地震と津波による災害の情報に接するにつけても、国土が大きくて、地震も台風もなく、水力発電にも事を欠かないブラジルは、本当に自然に恵まれた国であることを国民だれもが実感している。

暇なブラジル人男性が3人集まると、とめどなくピアーダが飛び出す

ジョークが大好きなブラジル人たちは、「ピアーダ」とよばれる落とし話で、特定の人種を揶揄して笑いを誘うことが得意である。その格好のターゲットになるのが、何故か、日本人とポルトガル人であるケースが多いが、時には、ブラジル人自らをモチーフにした自虐的ギャグもあって面白い。
その一例を挙げてみよう。
一生を終えて、無事昇天したある人が、天国で出会った神様に、在世の時から持っていた疑問を投げかけた。
「創造主の神よ。世界には東洋のある国のように、国土が小さい上に山ばかりで、毎年厳しい寒さと台風に見舞われ、時には大地震と津波で多大な災害を蒙る国がある一方で、南米のある国のように、広大な耕作面積を有し、食べ物は豊富で、一年中太陽が燦々と輝き、おまけに地震も台風もない国があります。この現実は、余りにも不公平ではありませんか?」
神、答えて曰く。
「そこに住まわせた国民の質で、ちゃんと帳尻を合わせているのだよ。」
かなりラジカルなピアーダではあるが、聞き手のブラジル人たちが大笑いしているところに、おおらかな国民性を垣間見ることができる。日本人が聞くと、はたしてどんな気がするだろうか。

(念のため、敢えてブラジル人の名誉のために記すが、近年、経済発展が目覚ましいブラジルの原動力になっているのは、世代交代の進行と共に、モラルと教養面でレベルが底上げされたブラジル国民たちに他ならない。彼らと恵まれた自然とが相まって、ブラジルが先進国の仲間入りを果たす日は、そう遠くはないであろう。)

災害は、勿論笑いごとではないが、ブラジル在住の一日本人としては、日本がこの危機を乗り越えて、このピアーダのように、日本人の底力を世界に示して欲しいし、必ずやそうなると確信している。  (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: (す)スケールが大きい, (ラ)ラテン気質は陽気 パーマリンク

(57)ブラジルにある原子力発電所 への1件のフィードバック

  1. Kouhichi より:

    mshojiさん こんにちは

    hummingbird0033(twitter) です。

    さっき、
    日経新聞ネット版記事で日本のブラジルへの原発交渉再開の記事を見て、
    ブラジルの原発の現状を検索し
    貴兄のブログに来ました。

    保有しているのは知っていたのですが、
    何基なのか憶えてませんでした。
    ブログ紹介の2基のみなのでしょうか。

    交渉再開に向けた建設予定地も決まっているのでしょうか。

    ブラジルは自分にとって2ヶ国…と数少ない訪問国の一つで
    復、訪ねてみたい国
    自然豊かなままに21世紀を躍進して行ってほしいなぁ〜 と思っています。

コメントを残す