(101) 日本企業がブラジルで成功する秘訣。

結論からいうと、成功の秘訣なるものは、多分存在しない。そんな秘訣があれば、450社の日本企業が進出しているブラジルで、もっと多くの成功例があってしかるべきであるが、実際にはそんな企業は、ほんの一握りである。

去る10月に、日本のB社から2名のスタッフが、ある調査のためにサンパウロを訪れた際、私はそのアシストを頼まれた。B 社は日本(本社・東京)で、中小企業の業績向上に役立てることを目的に、セミナー開催、講師の派遣、DVDの制作などを手掛けている会社である。それらの中小企業の中には、海外進出を目指している会社も多いとのことで、今回の訪問は、ブラジル進出を検討している企業に対して、そのアドバイスとなるような、DVDの制作が目的だったようだ。

訪問先は、商工会議所、ジェトロ、銀行などで、主に日本からの進出企業のブラジルにおける活動状況について、ヒヤリングをした。さらに、ブラジルで成功している日系の現地企業を3社訪問し、それぞれに成功の秘訣を質問形式で語って貰い、それを録画した。

3社の業種は、リゾート・ホテル、ブチックのチェーン店、高級日本料理レストランで、オーナーは全て日系二世であった。

PAradise-panoramicaリゾート・ホテルを経営しているH氏は、3歳の時に、広島県からブラジルに農業移住者としてやってきた家族の長男で、いわゆる準二世だ。彼は日頃から、「はたらけどはたらけど 猶わが生活楽にならざり じっと手を見る(啄木)」をそのまま地でいったような農業から、何とか脱出したいという、強い願望を持っていた。ある日、井戸を掘っていると、白砂の断層に行き当った。明らかに農地のものとは異なる地質に、H氏は直感的に、何か価値のある鉱物が含まれているような気がし、ひょっとしたら農業から脱出するチャンスになるのではないかと思った。そしてサンパウロの試験場に持ち込んだところ、カオリンという 陶磁器、アート紙のコーティング、化粧品、薬の賦形剤「ふけいざい」などの原料として無限に需要のある鉱物が含まれていることが判明した。あらためて調べたところ、白砂の断層は所有地一杯に広がる、巨大なものであることが解った。それからというものは、念願だった農業からの脱却を果たしてカオリンの採掘に力を注ぎ、それを元手に、湖畔に450室、ゴルフ場、サッカー場などを併設したリゾート・ホテルを建設して今日に至っている。H氏の話をまとめると「夢を持ち、その実現に強い願望を持つ」ことによって、訪れたチャンスを見逃さないようになる、ということであった。

nadia store高級ブチック・チェーン店(11店)のオーナーであるC女史は、数あるブティックとの競争に勝つために、従業員たちに「おもてなし精神」を持って顧客に応対することを徹底して教育することで、他店に差をつけ、事業を拡大した。さらに日系人経営の店として、初期の日本人移民が苦労の末に築いた「正直・誠実・勤勉」というブラジル社会における日系人に対する評価を、そのまま店のイメージと結びつけて、顧客にアピールした。C女史の話を総合すると、「日本人の特徴を生かした経営」に活路を見出した、ということであろう。

サンパウロの高級住宅地にある70席の日本料理店Kのオーナーシェフkinoshita-3であるM氏は、日本料理の修行のために2年間日本に滞在し、その後ニューヨークの日本料理店に2年間勤めたという経歴の持ち主だ。メニューのメインは、お任せのコース料理であるが、オーソドックスで伝統的な日本料理とは、材料も調理法もかなり異なっている、いわゆる創作日本料理である。Mシェフ曰く、伝統的な日本料理のスタイルにこだわらず、現地で調達する材料の特徴を生かし、ブラジル人の嗜好に合う調理法による日本料理の提供をモットーにしているという。「形にとらわれず、柔軟に現地のニーズにあった商品開発」をすることが、成功につながったとのことである。

サンパウロ日本商工会議所の事務局長によると、ブラジルに進出している企業数は450社であるが、成功と言える成果を挙げている企業は、ほんの一握りであるという。これは欧米の企業がブラジルで成功する確率に比べてかなり低いそうだ。では日本企業が立ち遅れている原因はどこにあるのだろうか。元より、絶対的な「成功の秘訣」なるものは存在しないとしても、成功のために取り入れるべき事柄は、いくつかあると思う。

進出企業にとって最大の難関は、言葉(ポルトガル語)と国の文化・習慣が異なることであるが、前出の3企業の成功例は、いづれも日系ブラジル人による経営なので、オーナーと従業員は言語の問題は無く、ブラジルの文化・習慣に馴染んでいるので、進出企業とはスタート時点で大きな差がある。それでも成功のキッカケになった経営者の考え方は、そのまま進出企業にも参考になる筈だ。

私見であるが、進出企業の成功に役立つであろう事柄をいくつか挙げてみる。

  1. 役員の退路を断つ:進出企業の駐在員の平均的な滞在期間は3年で、長くても5年であるが、こんな短期で一企業が成功する筈がない。それに3年間つつがなく勤めれば、帰国できるという立場の人に、中・長期的な成功のためのアイデアが生まれるとは思えない。駐在員を送りだす際に、成功するまで帰国させない無期限制にすれば、きっと真剣になって現地に溶け込み、言葉と文化・習慣を理解して、成功のためのアイデアが次々と生みだされるのではなかろうか。
  2. トップには人間的に魅力のある人を:ブラジルには終身雇用制は存在しない。優秀な社員を、恒久的に雇用することは極めて困難である。その理由は、従業員たち(特に優秀な人材)は、勤務している会社より、もっと魅力的で給料も高い企業に転職するチャンスを常に窺っているからである。彼らを引き留める方法があるとすれば、魅力のある会社にすることしかない。企業の魅力とは、社長の人間的魅力につながる。欧米の企業は、ブラジル進出に際しては、副社長クラスの人物をトップに派遣する。日本の企業はせいぜい課長・部長クラスで、ややもすると、窓際的な人物が派遣されてくることがある。その程度のトップに魅力的な企業にすることを期待する方が無理であろう。ブラジルは欧米文化の国で、日本とは言語・文化・習慣が違うハンデキャップを抱えながら、現地企業のみならず、あらゆる業種に世界中から進出してきている企業との競合を強いられる激戦地であることを忘れてはならない。
  3. 現地スタッフの登用:日本の進出企業の要職は、ほとんど日本人で占められている。例えば、言語・文化・習慣も解らない人に、営業部長が務まるであろうか?ブラジル人気質を理解していない人に人事部長が務まるであろうか? 答えは「ノー」である。3年間勉強したところで、理解度は知れている。それより、現地の人材をどしどし登用する方が、成果があがる。例え社長であっても例外ではない。現に、現地人を社長に登用して成功している日本企業が数社ある。一つの方法としては、ブラジル進出の際、事情が解らない国に単独で進出するより、現地に既存する企業とのジョイント・ベンチャーや買収の形でスタートすることが望ましい。そうすれば、現地企業の経験と人材をそのまま生かすことができるので、結果が出るのがずっと早くなるだろう。    (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: その他、色々 パーマリンク

(101) 日本企業がブラジルで成功する秘訣。 への4件のフィードバック

  1. 大野直一 より:

    貴Blog拝受多謝。小生は一昨年Mailを送りました者です。神戸須磨に居りました叔父の二人が貴方の神戸の高校を戦前に卒業しておりました。本日お願いがありまして連絡をとらせております。一昨年に床材を一コンテナをブラジルから日本に輸入いたし、更に4コンテナを輸入すべくL/Cまで開きましたが、Non Deliveryでした。待ってくださいとのことで一年間待ちましたが2014年は No Offer です。もしもSupplierを御存知でしたら仲介者になって頂けないでしょうか。不一

    大野 直一 拝
    myns@live.com
    SKYPE : mynscorp

  2. 末永信太郎 より:

    私,ブラジル在住の日本人なのですが,元々はブラジル育ちです。ブラジル人の習性は理解しておるつもりなのですが,何かお役に立てるお仕事などあるのでしょうか。

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