(100) ワールドカップの熱気で沸くブラジル:日本代表の戦い

Fifa 20146月12日、ブラジル開催の2014年サッカー・ワールドカップは、予定どうりに、サンパウロ市のコリンチャンス・スタジアムで行われたブラジルvs.クロアチア戦で、全64試合に及ぶ、熱戦の火ぶたを切った。

開幕ギリギリで完成したサンパウロ・スタヂアム

開幕ギリギリで完成したサンパウロ・スタヂアム

ブラジル政府が今回のW杯開催のために費やした経費は、約100億ドルといわれ、当初の見積もりの約10倍にまで膨れ上がった。主な内訳は、道路整備に33.6%、スタジアムの改装・建設に27.7%、飛行場の改装・建設に26.5%が費やされた。この莫大な出費に対して不満を爆発させた国民は、ブラジルに今必要なのは、教育と医療設備への投資であり、W杯への法外な出費はお門違いだと訴え、開催の数か月前から各地で大規模な抗議デモが行われ、一部ではそれがエスカレートして暴徒化するに至った。また、12都市で改修または新たに建設されたスタジアムの工事、道路と空港の整備は、予定より大幅に遅れ、それらの報道がマスコミを通じて海外に広く流されたので、W杯が果たして予定どうりに開催されるのかどうかと、FIFAと世界中のサッカーフアンたちをやきもきさせた。その一方で、地元のブラジル国民は、極めて楽天的で、予定どうりの開催に疑問を抱く人たちはごく稀であった。そして、開催日の数日前に、きっちり帳尻を合わせたように、スタジアム、アクセス道路と空港が、次々と完成し、予定どうりに開催日を迎えた。各地でゲームがスタートすると、それまでの不満や不安もどこえやら、国中がW杯ムード一色に包まれ、2億の国民は一丸となってブラジル代表応援ムードで盛り上がっている。

私は、特にサッカーフアンということでもないが、ブラジルでは一年を通じて質の高いプロサッカーのトーナメントが行われ、水曜日と日曜日のゴールデンアワーに、必ずサッカーの試合がテレビ放映されるので、この国の住民であれば、好むと好まざるに関わらず、サッカー観戦は生活パターンの一部になっているので、私を含めて、サッカーに関しては、かなり目が肥えているといえる。

今回の、ブラジル開催に当たり、高校の同窓で、大のサッカーファンであるK君とその友人が「日本代表の応援に、君の分のチケットも持って、ブラジルに行くので案内を頼む」とメールしてきたので、私も観戦に付き合うことになった。ところが、日本代表のグループリーグ戦の3試合は、レシーフェ、ナタールという、いづれもサンパウロから2500キロも離れた都市と、1500キロのクイアバー市に決まってしまったので、サッカー観戦のために、彼らとブラジル縦断の大旅行をすることになる。プログラムによると、レシーフェの一戦目から、二戦目のナタールの試合まで4日間のブランクがある。そこで、両市から約500キロ離れた大西洋の沖合にある、世界遺産の「夢の島」、フェルナンド・デ・ノローニャ島観光をスケジュールに組み入れて、W杯便乗値上げが始まる前の、2月頃からホテルとフライトの予約を入れ、万事整えて友人たちの来伯と、初めて生で見る日本代表の戦いぶりを楽しみにして待った。

その間、たまたま5月に商用で訪日することになったが、日本ではW杯における日本代表の活躍予想の報道が、連日マスコミを賑わし、前回のベスト16を上回るベスト8以上へ躍進の可能性ありという、皮算用で日本中が盛り上がっていた。特にヨーロッパのチームでプレーする主力選手たちの「優勝を目指す」という強気の発言があったりして、サッカーファンたちは、W杯における日本代表の活躍に夢を膨らませていた。

ブラジルに帰国すると、間近に迫ったW杯の予想記事が連日報道されていたが、地元ブラジル、アルゼンチン、ドイツ、オランダなどの下馬評が高い反面で、日本代表の活躍を予測する記事は、皆無だった。

6月14日、待望の日本代表の第一戦、コートジボアール戦が、レシーフェのペルナンブーコ・スタジアムでキックオフとなった。この試合の観戦に日本から訪れた人たちの数は約7千人といわれ、スタンドの一部をサムライ・ブルーで彩った。私は、ブラジルに来て50年余になるが、これ程多くの日本人が揃って来伯し、一堂に集まった風景を見たことがない。日系社会にとっては、歴史的出来事であろう。

さて試合の方は、開始早々に本田選手の見事なシュートで先制点を挙げ、幸先の良いスタートを切った日本代表であったが、その後、先制点が災いしたのか、気持ちが守りに入ってしまい、積極性がなくなって動きにぎこちなさが目立つようになり、一方的に押される展開となって、案の定、疲れで足が止まった後半に、決定的な2点を奪われ、逆転負けを喫してしまった。

サムライ・パフォーマンスの日本人サポーター

サムライ・パフォーマンスの日本人サポーター

W杯は、ピッチで繰り広げられる白熱したゲームもさることながら、各国のサポーターたちの応援合戦も見もので、それぞれが特徴のあるパフォーマンスで、自国チームを応援する。大部分は、選手と同じユニフォームを着用し、さらに顔や身体を自国の国旗の色にペイントしたり、民族衣装に身を包んだりして、休むことなく選手たちに声援を送る。

日本人サポーターたちは、一様に選手と同じサムライ・ブルーと呼ばれる、青いユニフォームを身につけ、「ニッポン、ニッポン」とやや控えめの応援に終始していたが、チームが劣勢になると静まり返って見守ることが多かった。またパフォーマンスは、ちょんまげ姿の侍スタイル、忍者、浴衣の女性などがチラホラ見られたが、他国に比べてバラエティーと迫力に乏しい感じがした。

スタンドをサムライ・ブルーで彩った遠来の日本人サポーター

スタンドをサムライ・ブルーで彩った遠来の日本人サポーター

日本代表の選手たちは、たまたま、我々と同じホテルに宿泊していたが、一次リーグ戦突破のためには勝利が不可欠とされていた第一戦のゲームを落としたショックはかなり大きかったようで、翌日、朝食を済ませてバスに乗り込む選手たちの姿には、どことなく敗戦の後遺症が深く影を落としているように感じられた。

6月19日、ナタール市での第二戦目は、同じく第一戦目をコロンビアに敗北したギリシャが相手だ。一次リーグ戦を突破するためにはお互いに負けられないゲームである。

この試合で、日本代表は前回よりも積極的に動き、一人の退場者を出したギリシャに対し、ゲームを通じてパスを回し、ボールの支配率は65%に達したが、肝心のゴールへシュートする決定力が不足していたために点が取れず、結局0対0の引き分けに終わった。翌日、ブラジルのマスコミは、終始ゲームを支配しながら、勝利に結びつけられなかった日本代表の戦いぶりを、批判する記事が紙面を賑わした。コメントの総評は「決定力の欠如」という点で、ほとんど一致しており、中には、日本代表はパスの練習に重きを置くあまり、シュートの練習にはほとんど時間を割かないのではないか、という酷評さえあった。

6月24日、一次リーグ戦通過の土壇場にたたされた日本代表は、クイアバー市のパンタナル・スタジアムで、既に一位で決勝トーナメント進出を決めているコロンビアとの第三戦目に臨んだ。勝つしかリーグ戦通過の目は無い。

日本は、第二戦目よりさらに積極的にピッチを走り回り、時折シュートも出て、この試合にかける意気込みが感じられた。前半早々にペナルティー・キックを取られて一点を失ったが、気落ちすることなく攻め、終了間際にシュートを決めて、前半を同点で折り返して勝利に一縷の望みをつないだ。既に決勝トーナメント進出を決めている余裕のコロンビアは、レギュラー8人を温存していたが、後半に入ってレギュラーを投入した途端に見違えるようにチームに活力がみなぎり、立て続けに3点を奪って圧倒し、日本代表にW杯のピッチから立ち去る引導を渡した。この試合で、日本が放ったシュートは21本で、その内わずか一本のみ、ゴールネットを揺らしたに留まった。シュートは全てゴールポストの枠外か、キーパーの正面をつき、キーパーの手の届かない箇所に、正確にシュートを決めるコロンビアのストライカーたちとは対照的だった。

サッカーは、パスでボールを支配する「陣取り合戦」ではなく、「点を奪ってナンボ」のゲームである以上、シュートを放つ必要性もさることながら、ネットを揺らせる場所にキックする正確さも、今後の日本代表には欠かせない重要課題であることを、W杯の3試合を見るために、はるばる遠い日本から応援に駆けつけた7千余人のサポーターたち誰もが痛感したことであろう。

今回の観戦で、「W杯優勝を口にするには10年早い。それより黙々と練習を重ね、自らの技をもっともっと磨け。」というのが、日本代表選手たちに対する私の率直な苦言だ。

という訳で、日本代表は何らいいところなく、個々の選手やチームが、ブラジル人たちに与えた印象も極めて希薄なままに、ブラジルから去ることになってし まった。遠来の友人たちも、日本代表のふがいない戦いぶりに少なからずがっかりしていたが、美しいフェルナンド・デ・ノローニャ島の観光で、少しは気分が癒されたようだった。それにしても、7千人以上の日本人たちが、レシーフェとナタールに5日間も滞在していながら、目と鼻の先にある、世界遺産で、風光明媚なノローニャ島を訪れる人が皆無だったことは、日本の旅行社の職務怠慢と揶揄されても仕方がないだろう。

さて今回、日本人が現地のマスコミの話題となった出来事が二つあった。それらは残念ながら、選手やチームに関わるものではなかった。

ブラジル初戦で笛を吹いた西村主審

ブラジル初戦で笛を吹いた西村主審

一つ目は、ブラジルv.s.クロアチア戦に主審として笛を吹いた、西村雄一審判員だ。彼は、クロアチア選手のゴールエリア内でのクロスプレーに対し、迷わずペナルティーキックを宣告したのだ。それによってもたらされた得点は、劣勢のブラジルにとって起死回生となる逆転弾となったので、そのプレーが本当にPKに値するものであったかどうかが、話題となってマスコミを大いに賑わした。このペナルティーについては賛否両論であったが、どちらかといえばPKを疑問視するサッカー評論家たちが多く、西村氏はブラジル勝利の片棒を担いだというニュアンスの記事のお蔭で、一躍、ブラジル国民から英雄扱いされる存在となった。ジョーク好きでクリエイティブなブラジルらしく、翌日には早速、黄色と緑のブラジルのユニフォームを着こんだ西村選手(?)のサッカー・カードが発売され、飛ぶように売れたという。

青いごみ袋で応援し、試合終了後スタンドのごみを収集した。

青いごみ袋で応援し、試合終了後スタンドのごみを収集した。

もう一つの話題は、サポーターに関するものだ。レシーフェとナタールで行われた日本代表の試合終了後、日本人サポーターたちが占拠していた観覧席のゴミ類が、彼らによってきれいに取り除かれ、塵一つ残っていなかったということが、ブラジル・サッカー史上始まって以来の出来事だとして、マスコミが取り上げた。(最もこの行為については、賛否両論で、ブラジルではどこのスタジアムにも清掃専門の従業員がいるので、彼らの仕事を奪う、行き過ぎた所作だとの見方もある。)

さて、ブラジルW杯の進行状況は、現在8強が出揃ったところで、正に佳境に入ろうとしている。幸いにして、地元ブラジル代表は、苦しみながらもベスト8に名を連ね、ブラジル全土をスッポリと包み込んだW杯熱気をそのままキープしている。工事が遅れていた12か所のスタジアムは、ピッチの芝付も上々で、最高のコンディションにあると、各国代表選手たちは、賞賛の言葉を惜しまない。危惧された治安面でも、置き引きなど(持ち主の不注意による)の小さな事件はままあるものの、大きな問題が発生することなく、無難に進行している。

ブラジル代表の試合がある日は、全国的にほぼ休日扱いで、いざ試合が始まると、街から人の影が消え、いつもは渋滞する市街の道路や、ハイウエイを走る車も、ウソのようにまばらになる。2億人の熱烈な応援に後押しされた、ブラジル代表の今後の戦いぶりが注目されるところだ。

さて、今年の年末には大統領選挙がある。W杯に多大な国費を割いた、現役のジウマ大統領が再選されるかどうかは、ブラジルが優勝するか否かにかかっているというのが、もっぱらのウワサであるが、どうもその信憑性は極めて高そうだ。 (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
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(100) ワールドカップの熱気で沸くブラジル:日本代表の戦い への2件のフィードバック

  1. マッキン より:

    日本が惨敗は残念ですが、ゴール前の体力、シュート力が全く劣ってます、ヨーロッパで活躍してる日本人の細かい動き、機敏さは、体力のあるチームメイトの中で発揮できてると思います、体力の差を考えチーム作りしないと駄目ですね。

  2. 大野直一 より:

    何時も拝見させていただいております。日本は残念でしたね。

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