(75)離婚が急増するブラジル

ブラジルで離婚の数が急増している。

IBGE(ブラジル地理統計院)の統計によると、ブラジルにおける2009年の離婚数は23万1329件に達し、人口に対する離婚指数は1,49%となって、指数は(1984年から)35年の間に、200%増加したとのことである。

同年にブラジル全国で登記された結婚総数は91万6006件なので、大雑把にいうと結婚4件に対して離婚が1件発生していることになる。

私が住んでいるサンパウロ州に限っていうと、2010年における離婚数は9,317件で、前年に比べて109%増となっている。

近年急激に離婚の数が増えている原因の一つに、2007年1月4日に改定された離婚法(法令11441号)によって、離婚は家庭裁判所の調停を仰ぐ必要がなくなり、別れることに合意した夫婦が、弁護士を伴って登記所に出頭し、登記簿にサインするだけで簡単に成立することになったことがあげられる。特に夫婦間に未成年の子供が居ない場合は、条件についてモメることも少なく、以前のように成立までに2~3年かかるようなことがなくなった。

統計によると、今日(こんにち)のブラジルでは、結婚持続年数の平均は10年となっており、離婚の要求は70%が女性からによるものである。

増加する離婚数を、自らさらに増やすことになるなどとは、夢にも思っていなかったが、去る3月某日、私は17年間連れ添った妻から、突然「三行半」を突きつけられた。

妻との結婚は、私にとっては3度目で、「3度目の正直」ではないが、このままつつがなく一生を共に過ごせるものとばかり思って、タカをくくっていた。

その一ヶ月ほど前に、グアルジャー・ゴルフクラブの会員である同年輩の中国系の友人が15年間連れ添ったブラジル人の奥さんと協議離婚した。彼曰く、喧嘩別れをした訳ではないので、離婚後の或る日、誘われるままに連れ立って共通の友人夫婦宅に食事に出かけた。そして例によって食後に4人でカード・ゲームをすることになった。ところが元妻は、頑としてテーブルに就くことを拒否したという。

「私、カード・ゲームは好きじゃないの。」と、譲らない元妻。

「だって君はいつもゲームに参加していたじゃないか。」と、元夫。

「それはあなたの妻だったからよ。」

その言葉で、彼は元妻が引越しをするとき、彼女が愛用していたテニスのラケットを荷物に入れなかったことを不審に思って、訊ねたときのやりとりを思い出した。

「ラケット、忘れているよ。」

「持っていかないわ。私がテニスに相伴していたのは、あなたがテニスを好きだったからよ。」

彼は、如何に自分が妻のことを理解していなかったかということを改めて知って、愕然としたという。私は彼とゴルフをしながら、その話をまるで他人事のように聞いていた。

妻から離婚話が持ち出されたのはそれからたったの一ヵ月後だった。そして、妻は家を出るとき、私と共に数え切れないくらい何度も轡を並べて遠乗りをしたときに使っていた乗馬ズボン、ブーツ、ヘルメット、グローブなどを一つにまとめて袋に入れ、「誰かにあげてください」とメモを残して去っていった。

いつか観た日本のテレビ・ドラマで、年老いてやっと悪行(?)が治まった夫について、妻が語るシーンがあって、印象に残った。

「この人の浮気には随分と泣かされました。やっとおとなしくなって平穏な生活になり、今は幸せです」

私は、一歩外に出ると決して妻に対して真面目な亭主とはいえなかったが、やがて訪れる晩年における妻とは、そのドラマのような夫婦関係をイメージしていた。

彼女とは、私が在日ブラジル人たちのためにポルトガル語新聞を発行するために日本に滞在していたときに知り合って結婚し(参照:「5」抱いた夢、消えた夢III)そのまま12年間日本で暮らした後、ブラジルに戻ってきてから5年を共に過ごした。

パラナ州の旧日本人植民地であったアサイ市で生まれ育った、いわゆる日系ブラジル人の彼女(参照:「15」ブラジルに生きている明治の日本人)は、容姿は日本人と変わらず、日本語が達者なことに加えて謙虚で辛抱強く、日本のドラマに出てくるような良妻タイプの女性で、私はいつしか彼女がブラジル人であることを忘れ、あたかも日本人であるかのように錯覚をしていた(ように思う)。

ブラジル人の亭主は、妻に毎日のように「愛しているよ」と語りかけ、出掛けと帰宅した時にはチューをするのが当たり前だ。私はブラジル生活が長く、しかもブラジル女性とも結婚経験があるにも関わらず、喉元を過ぎた熱さをいつしか忘れ、無意識の内に、ブラジル社会ではまず通用しない古いタイプの日本人の夫、いわゆる亭主関白を決め込んでいたのだ(と思う)。

そんな状況の中で、寝耳に水の「三行半」を突きつけられた時になって、私はハッと妻がブラジル人であったことに気付いたが、時既に遅く、イメージしていたドラマのような晩年を迎える前に、弁護士を伴って登記所に出頭するハメになってしまった。

その決断に至るまでに、彼女はきっと思い悩んだに違いない。その選択が、彼女にとってより幸せな道になることを祈りながら、私は書類にサインをした。手続きに要した時間は、わずか15分であった。

犬と暮らすマンションからは海が見える

それから既に5ヶ月が経過し、犬と一緒(参照:「2」最後に愛した金髪)のやもめ暮らしにもなんとか慣れてきたところである。

そんな或る日、偶然日本のある女性のブログを読んだ。

「夢…このまま子供がスクスク育ち、ついでに宝くじが当たって中古マンションを買う。子供は母の苦労を見ているのでニートにはならず、資格を取って自立。私はその後で、犬と一緒に幸せに暮らすの…どう、そんなエンディング?」

私の3人の娘たちは既に結婚し、その内二人は会社の後継者として自立している。そして私は、海が見えるマンションに犬と一緒に暮らしている。これって考えようによっては、人生のエンディングとしては、結構幸せなのかな...(と思ったりしている)。

奇しくも、この離婚話は東北関東大震災とほぼ時を同じくして持ち上がった。

以後5ヶ月が経過したが、今でもNHKの国際テレビ放送で、被害に遭った人たちのその後の状況が報道されている。つい数日前にも、津波で妻を失い家屋や田畑を流された(おまけに愛犬は行方不明)、私と同年代の男性が、仮設住宅で先行きについてコメントしているのが目にとまった。

帰宅すると、嬉々として出迎えてくれる犬がいる

「大切なものを失ったが、これにメゲずにこれからも頑張って生きていきたい。」

私も、突然妻と資産の半分を失ったが(離婚の場合、法律で財産を二分することが定められている)、地震と津波の被害者に比べれば、自分の方がずっと恵まれている、と思う今日この頃である。  (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: その他、色々 パーマリンク

(75)離婚が急増するブラジル への6件のフィードバック

  1. 吉田利明 より:

    mshoji様

    googleで何気なく検索をしていたら、mshoji殿のブログ(?!)に出会いました。
    貴殿の文章を読ませて戴くうちに、文の展開力と表現力にとても魅了されました。
    書かれているテーマも多岐に渡っていて、まるでプロの作家が書いたかと思えるほどです。
    私ごときがどうこう言う立場ではありませんが、気を落とさずに前を向いて、
    今後も素晴らしい文章を書き続けて行ってください。

    • mshoji より:

      吉田様
      コメントをありがとうございます。いつまでネタが続くかわかりませんが、ブラジルに関わるテーマで書き続けたいと思っています。今後とも、ご愛読の程、よろしくお願いいたします。

  2. Tatsuya Inagaki より:

    初めまして

    Alternativa愛読しています。

    離婚に際してもポジティブなショージさんに敬服します。

    また新たな出会いがあるんでしょう

    • mshoji より:

      コメント、ありがとうございます。
      新たな出会いについては、チャンスがあれば積極的にいきたいと思っています。

  3. Masa より:

    初めまして。ウェブでたまたま見つけてコメントしてます。実は今、同じシチュエーション真っ盛りで多いに共感してしまいました。いろいろ特殊事情があるのですが、差し支えなければ是非、実際のお話聞かせていただけたらと思っています。 家内はブラジル人で私は2度目の結婚です。私が思うにブラジル人のサガでは一度冷めてしまったものはもう温まらないもののように見えます。現在、サンパウロ在住です。返信いただけたらうれしいです。 SHOJI様も今後のご健闘をお祈りいたします。

    • mshoji より:

      コメントをありがとうございます。言うまでもなく、同じブラジル人でも、性格は千差万別で、ケース・バイ・ケースだと思います。一つ共通していることとがあるとすれば、日本人に比べ、幸せ願望がとても強いことでしょうか(と同時に幸せになる権利があると、強く信じている)。日本人亭主一般(私を含めて)に言えることは、日常生活において、パートナーの幸せについて、あまり意識していない、というのがあると思います。パートナーの幸せを、常に自分とフィフティーフィフティーで意識し、行動に表す習慣が身につけば、破綻の可能性はずっと少なくなると思います。あなたに、まだパートナーに対する愛があるなら、修正不可能の結論を出すことを、急ぐべきではないと思います。

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