(72)ブラジルの女中文化


中産階級の家庭の70%が女中さんを雇用している

ブラジルの人口の16%に当たる人たちが中産階級と呼ばれ、およそ1000万世帯を構成している。この階級の人たちの生活に不可欠なのは女中さんの存在である。

ブラジルには女中、お手伝い、ベビーシッターといわれる類の職業に従事している女性たちが720万人存在している。これは全女性勤労者の約20%(5人に1人)にあたる。

これらの女性たちは、人口の25%を占める低所得層に属している人たちで、同階層に1000万人いるといわれる女性勤労者の内、72%が女中さんもしくはそれに類似した仕事に従事している。

女中に家を任せて外出する主婦。中産階級の家庭は女中さんなしでは機能しない

彼女たちの職場は、70%が女中さんを雇用しているとされる中産階級の家庭で、独身者は住み込み、既婚者は通勤の形で働いている。職場がセカンドハウスになると、家の管理も兼ねて夫婦(子連れの場合もある)で住み込んでしまう。

中産階級の家族の日常生活は、女中さんの存在なくしては機能しない、といっても過言ではない。住居の掃除は元より、炊事、洗濯に加え、スーパーの買物から子供の世話に至るまで、主婦は女中さんにほとんど丸投げの状態で頼り、おまけに犬の散歩まで任せてしまう。

女中さんの存在があるからこそ、家族(特に主婦)は安心して仕事に専心できるし、買い物や旅行にも出かけることができるという訳だ。

ブラジルが抱える社会問題の一つに、貧富の差が大きいことが挙げられるが、正にその差が存在するお陰で、中産階級の人たちは快適な生活を営むことができ、逆に、低所得層の人たちは職場が得られ、家族の生活が成り立っているのである。

この主従関係の原型は、1888年の奴隷解放に至るまで、元来ブラジルの歴史上に古くから存在していたもので、その名残を留めているかのように、極めて自然な形で今も中産階級の家庭に存続している。

言葉を覚えた幼児は女中を指図する

そんな家庭で生まれた子供たちは、物心がついた時から家庭内に家族以外の人物が存在していることに、何ら違和感を抱くことはない。言葉を覚えると間もなく、子供はその人物に対し、当然のようにアレコレ命令をし、指示をするようになる。

2才の女児がいる私の娘の家庭では、夫婦共稼ぎなので、女中さんを雇用している。終日女中さんと一緒に過ごす孫娘は、女中さんが何でも言うことを聞いてくれるのをいいことに、言いたい放題、やりたい放題のクセがついてしまい、夕方になって帰宅する親たちに対しても思いどおりにならないと、すぐに泣き出してダダをこねる。一人娘なので夫婦でホイホイしているが、私としては、そんな調子で育つ孫の将来が心配だ。

一方の、女中さんたちはこの職業を、あたかも天職のように捉えている人たちが多く、現代の民主主義社会の中で、主人(と家族)に対し、ただひたすらかしずくことに、何ら抵抗を感じていないように見える。

彼女たちは、一様にその道のプロたちで、大邸宅やマンションを隅々までピッカピカに磨きあげるだけでなく、手際よく洗濯やアイロンかけをこなす。料理が得意な女中さんも多く、富裕層では料理専門の女中さんを雇用している家庭も多い。

元来、大邸宅に住んでいた中産階級の人たちは、近年では治安の関係でマンションに居を移している家庭が増えているが、マンションの売買には、女中部屋が付いていることが必須条件になる。

このように、女中さんなしでは生活が成り立たない中産階級の主婦たちは、実によく彼女たちの扱い方を心得ている。立場とケジメを明確にしつつ、あたかも家族の一員のように接する術は見事なもので、中には愛社精神ならぬ、愛家精神を発揮して、家族に対して誠心誠意で尽くす女中さんたちも少なくない。ブラジルの女中文化における特筆すべき一面であろう。

主婦は、若い女中さんには気を置けない

女中さんの年令は、40才~50才の既婚者が圧倒的に多いが、中には20~30代の若い独身女性もいる。そんな女性には主婦も特別に目を光らせる必要がある。ブラジル人男性は幾つになってもスケベーで、亭主が必ずチョッカイをかけるからだ。逆に、若い女中の方から亭主や息子に逆ナンパをかけるケースも結構多いようだ。

日本からの進出企業の役員たちは、立場上、高級マンションに住み、女中さんを雇うが、女中文化に慣れていない奥さん連中は、女中さんの扱いには一様に頭を悩ますようだ。言葉の問題もあるが、対応が高飛車過ぎて反感を買ったり、逆に、家族的過ぎてナメられてしまったりするからだ。

また、どこの家にもある貴重品に関わる問題も多い。例えば、そこに置いた筈の指輪が見当たらないとする。そんな時は、まかり間違っても疑うような言動は慎しまねばならない。下手すると、指輪が戻らないだけでなく、女中さんまで失ってしまうことになりかねないからだ。

「指輪をどこかに置き忘れたみたい。見かけたら言ってね。」とやんわり言うと、翌日には

「これですか?」と、必ず見つけて(?)渡してくれる。

ブラジルは、人目の付くところに貴重品を置き忘れて無くなった場合、拝借した方よりも、置いた方が悪いというコンセプトがまかり通る国だからだ。

女中さんの雇用は年々難しくなっている

正直で働き者の女中さんが雇用できればラッキーだが、昨今では質の如何に関わらず、女中そのものの雇用が次第に難しくなっている。それというのも、ブラジル全体の教育レベルが向上していることに加え、経済成長が著しく、様々な職場で雇用チャンスが増大しているので、社会的に低く見られがちな職業である女中になりたがる女性の数がどんどん減っているからだ。この10年間で18~24才の女性が、女中に従事する数は22%から11%に半減し、30~45才までの女性も42%から37%に減少している。同期間に、女中に従事する女性の数がブラジル全体で14%減った反面で、給料は21%高騰している。

女中さんの社会的地位の認識を高めようという意図(かどうかは定かではない)で、某民放テレビで、ミス・女中さんコンテストが企画され、応募者多数の中から選ばれたミスは、賞金5万レアール(25万円)、雇い主は2万レアール(10万円)を獲得し、番組は高視聴率を得た。また、今年のミス・ブラジルに選出されたナターリャ・アンデーレ(22)は、過去に、学資を稼ぐために女中さんの仕事に就いていたことが判明し、話題になった。

いずれにせよ近い将来、中産階級の家庭における女中文化に、大きな変化がもたらされるであろうことは明白である。

(完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
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(72)ブラジルの女中文化 への1件のフィードバック

  1. shoji6 より:

    太平洋戦争突入までの日本の中産階級でも女中さんを雇い入れていた家がかなりあったようで、国策の生めよ増やせよに副って子供の多かった家庭(我が家も九人の兄弟姉妹、両親合わせて十一人)では必ずと言っていいほど女中さんがいた。口減らしで困っていた貧農の子女を雇い入れるというより預かって、勿論家事一切子供の世話までさせる訳だが、この預かってということは女中さんの家元との、一人前の女性に育て上げる、という約束みたいなものがあったようで、何年か奉公してその間ご主人様(特に主婦)のお蔭で曲がりなりにも主婦候補となり年頃になった女中さんは報酬の他に支度金まで戴いて晴れて嫁入りすことになる、これが日本の女中文化を形成した一面でもあった。ここに奴隷制度からの名残とは言え確固たる職業となった諸外国の女中文化との違いがあったようだ。尤も日本でも戦後は職業化し、家政婦又はお手伝いさんという名称になったが、高齢者社会に突入してからは福祉事業が発展して介護士とかヘルパーさんと呼ばれる一部有資格者職に変遷してきている。今回のブラジルの女中文化の紹介文中、あたかも家族の一員のように溶け込んでしかも家事万能が故に重宝されている方々もおられるくだりに何故か安堵させられました。幼少のころの我が家の女中、福さんや菊さんが懐かしい・・・何処の出身で本名は何というのだったのだろう。

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