(60)料理を目方(キロ当り)で売るブラジルのレストラン

最もポピュラーなスタイルのポル・キロ(目方売り)レストラン

「レストランで料理を目方(めかた)で売る」というのは、いかにもブラジル人らしいクリエイティブな発想である。
このシステムは1900年代に、ビジネス都市サンパウロのダウンタウンで、ある小さなレストランが始めたのをきっかけに、サンパウロのみならず、その他の都市を中心に、ブラジル全土に広がっていった。
私がブラジルに着いた1960年代は、会社の昼休みはたっぷり2時間あり、街中のほとんどの商店もシャッターを下ろして、中休みをするのが普通であった。
ワーカーたちは、家に帰って愛妻の手料理で昼食をとり、さらに時間的余裕があると、リラックスしてパジャマに着替え、奥さんと一戦を交えてから、おもむろに午後の仕事に出かける輩も多かった。
ところがその内、ブラジルが世界の水準を見習って、昼休みが1時間半になり、商店も昼休みがなくなって、さらに昨今のようにオフィースの休憩時間は1時間が当たり前になったことによって、商業地域で働くワーカーや、ビジネスマンたちの昼食のスタイルも大きく変化した。
先ず、昼食のために帰宅することは時間的に無理になり、弁当を持参する人たちが出始めた。
これまでの昼下がりの情事に替わる、朝イチのセックスの後で、奥さんが弁当を作る気分では無かったり、職場で弁当を開くことにイマイチ馴染めなかったり(ちなみに、ブラジルに弁当専門店は無い)、少しステイタスにこだわる人たちのために、商業地域にあるレストランでは、日替わりで2,3種類の定食を用意し、短時間による昼食サービスを目指した。このシステムは、値段こそポピュラーであったが、メニューのオプションが少なく、ピークの時間には客が立て込んで、食事に時間がかかるという難点があった。
そこで、さらにひと工夫が加えられて、大テーブルに料理を全部並べたバイキング形式で、セルフ・サービスによって昼食を提供するレストランが出現した。このスタイルだと、メニューはよりバラエティーに富んでいて、短時間で食事を取ることが出来るので、それなりにヒットしたが、欠点をいえば、価格が均一であることで、大食漢も小食の人も同じ代金を払うという、不公平さであった。
そんな過程を経て、1900年代になって出現したのが、ポル・キロ(キロ当り)という、それぞれが皿に盛った食べ物の重さで、代金を支払うというシステムのレストランであった。
数10種類のサラダと前菜からスタートするこのスタイルだと、メニューはバラエティーに富んでいるのに加えて、短時間で食事が出来、しかも代金が一律ではなく、老若男女からなる顧客の胃袋に応じて決まるので、公平感があることから、たちまち多くの人たちに支持されるようになり、昼食時にこのシステムを採用するレストランが急増していった。
当初、このシステムを採用したレストランの大部分は小規模で内装も簡素な店が多く、雰囲気は食事を楽しむというには程遠く、単に安価に腹を満たすといった感じであった。
ところが、その内に由緒ある大型店でも、昼食サービスにはこのスタイルに切り替える店が次々と現れ、テーブルに並べられる料理もさらにバラエティーに富み、良質の食材で品質の高い料理を提供して、さらにワンランク上の客層を取り込むことを目指すレストランが現れ始めた。

前菜に刺身、寿司が並んでいる店もある


これによって、キロ当りの価格は、安い店では20レアール(1000円)、高い店だと40レアール(2000円)と、ピンキリでバラツキが出るようになったが、それぞれの店にはそれなりの固定客がつき、今では商業地域やオフィース街における、昼食の主流スタイルとして人々に親しまれ、どこの店も大繁盛している。
このシステムの店は、まず入り口を入ると大き目の皿がうず高く積まれたテーブルがあり、客はその一枚を手に取る。
次に食べ物を入れたトレイが並ぶ細長いカウンターがあって、数10種類のサラダと前菜(ここに刺身、寿司、冷や奴などを出す店がある)が並んでいる。次にご飯(白飯、炊きこみご飯など)、とフェジョン(煮豆。白豆と黒豆2種)があって、さらにスパゲッティーやラビオーラなどパスタ類が用意されている。

メインディッシュの牛肉、豚肉、鶏肉、魚などの料理は熱々である


続いてメインディッシュになる、牛肉、豚肉、鶏肉、魚などの、ブラジル人たちが最も好む動物性タンパク質の料理がズラリと並ぶ。この部分が最も趣向がこらされる場所で、煮たり、焼いたり、蒸したり、揚げたりされた料理が日替わりで供される。料理が入ったトレイは、空になる前に、どんどん新しいものと交換されるので、料理はいつも熱々である。ここまでの料理を、客は皿のスペースと胃袋に配慮しながら採ってゆく。
そこから少し距離を置いた場所に、デザートが所狭しと並んでいる。果物類はいうに及ばず、手を加えた数々のケーキ類が並んでいて、誘惑に負けた女性たちが思わず手を伸ばす。そこでやっと食べ物の選択が終わり、大型冷蔵庫から飲み物をピックアップして、食事の準備が全て整う。

種類豊富なデザートの果物


後は、計量担当者が見守る計りに食べ物の入った皿を載せ、代金が記載された伝票を受け取って、空いた席を見つけて腰を落ち着ける。
ブラジル人は、元来レストランでの相席を嫌うが、このシステムの店に限って、お互いに譲り合って相席をするのが普通になっている。
このスタイルのレストランは、同僚たちと和気あいあいで、互いが選択した食べ物などを話題にしながら楽しく食事ができ、肉食党やベジェタリアン、ダイエット中の人たち全てが、自分に合った食べ物を選択できることが人気の要因であろうが、その反面で、客が次から次へと立て込んでくるので、ゆっくり食事をするのにはやや不適当である。

料理を盛った皿を計りに乗せる


食事が済むと、テーブルでのおしゃべりは早々に切り上げて、使用した食器類はテーブルに置いたままで立ち上がり、人々は会計の行列に加わる。
支払いを済ますと、かたわらのテーブルに用意してあるコーヒー、ティー、番茶などで、食事の最後の仕上げをすることになる。
レストランの従業員たちの仕事場はキッチンが主で、ホールには料理のトレイの交換と、テーブルのあと片付け専門の従業員が数名いるだけなので、人件費がかさまない。
オーナーによると、客足が軌道に乗ると消費される食材の量が把握できて、無駄が極めて少なく、その分、常に新鮮な食材で安価に料理が提供出来るのだという。
さて、これらのレストランの台頭によって、老舗のレストランや、グルメ党たちに親しまれるア・ラ・カルト方式のレストランが姿を消したかというと、そんなことはない。ブラジルのエグゼクティブやビジネスマンたちは、客の接待には、夕食よりも、むしろ昼食に誘う方が一般的なので、高級レストランもそれなりに、相変わらず繁盛している。
被害を蒙ったのは、高級でもポピュラーでもない、どっちつかずのレストランであろうか。(完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: その他、色々 パーマリンク

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