(56)ブラジル人の生活様式・III(住)

ブラジルの古い、地方の町

日本で怖いのは、地震、台風(雷)、火事、親父などといわれるが、ブラジルには地震(津波)も台風もなく、木造建築物が少ないので、火事も稀である。ついでに、ブラジル人の父親は一般的に子供に優しい。すなわち、怖いものなしの極めて平和な国なのである。
ブラジルの一般的な家屋は、まずコンクリートで4隅に鉄筋を入れた柱を造り、その間にレンガを垂直に重ねていって壁を造る。壁が完成すると、木の梁を渡して屋根をふく。地震がないので、レンガを垂直にさえ積んであれば、崩れる心配はないので、建築様式は極めて簡素で、費用も安上がりだ。屋根は赤い瓦で覆われ、壁は白壁というのが最も一般的なブラジルの家屋だ。地方の街を訪れると、高い建物がほとんどなく、家々の屋根の赤、壁の白、椰子の木の緑が混然と融和して、実にのどかで素朴なブラジル的風景が遠望できる。

富裕層が住むサンパウロ南部の住宅地。規制によりマンションと大邸宅の用地がはっきり区分されている

ところがサンパウロのような大都会になると、家屋は多様を極める。私が、ブラジルに着いた1960年代は、高層建築といえば、ダウンタウンの極く限られた地域に建てられた商業ビルしかなかったが、今では市内全域に亘って、商業用だけでなく、居住用のビルがビッシリと林立している。

ブラジルの所得階層は、A,B,C,D,Eに区分されるが、60年代には、Aクラスの富裕層の人たちは、市内の南部に特定された地域で、優に1千平米はある敷地に建てられた大邸宅を住居にしていた。80年代になって、治安問題が取りざたされるようになり、富裕層は大邸宅から、24時間警護でセキュリティー面でより安心な、高級マンション・ビルに住居を移すようになった。

高級マンション。ワンフロアー1軒で400平米

マンションは高級になると、5千平米を越す敷地に、10~20階建てのビルが建てられ、共用のプール、フィットネス、パーティーホールなどが設置されている。各階には1ないし2戸の住居があり、床面積は200平米から400平米と広く、寝室は4~5室あり、ガレージは車4台分のスペースが割り当てられている。価格は床面積1平米に対し、4~5千米ドルが平均相場である。
これにともなって、大邸宅は企業の事務所に転用されたり、地域によっては取り壊されて、高層ビルに建て替えられたりし、市内は大きく様変わりした。

邸宅形式の家に慣れていて、どうしてもマンションに馴染めないという富裕層の人たちは、郊外に広大な土地を確保して周囲を塀で囲んだコンドミニアムの中に、300~500平米の土地を購入し、好みの家を建てて住むケースが多い。コンドミニアムは、セキュリティーの面では、マンションに劣らず堅固であるとされている。

中流マンション。一軒120平米

Bクラスの人たちの住居もマンションが主流で、市内にある80~120平米で、寝室2~3室、ガレージ2台分のマンションが、標準的なスタイルである。これらのマンションも、24時間警備になっていて、敷地内には居住スペース以外に、プール、プレイグラウンド、フィットネス、パーティーホールなどの共用スペースがあるビルに人気がある。価格は床面積1平米に対し、3~4千米ドルが平均相場である。
これがCクラスになると、ダウンタウンから10キロほど離れた郊外に建てられた、2寝室+ガレージ1台分で、面積は100平米未満のマンションということになる。これらには共用スペースがあるビルは少ない。価格は床面積1平米に対し、約2千米ドルで販売されている。

郊外に多い2階建てのソブラード

治安がまだそれほど悪くなく、マンションがマイホームの主流になる以前の時代に、市内でBクラスの人たちが住んでいた家は、ソブラードと呼ばれる2階建てで、前庭がガレージを兼ねている家がもっとも多かった。今ではそれらの大部分がマンションに取って替わられ、2階建てソブラードは、郊外にのみ見られる家屋になりつつある。
このスタイルの家だと、3寝室があって10~15万米ドル位で手に入るが、この種の住宅に住む人たちは、セキュリティーに関しては、自らの責任で賄う必要がある。
また市内の商業地域に建てられた2階建て家屋は、1階が店舗用で、2階が住居用という建物が多く見られ、B,Cクラスの人たちの住居になっていたが、ダウンタウンに近いこれらの建物は次々と取り壊され、それに替わってビルの建築が進んでおり、市内の景観は日々変貌しつつある。

スラム街・ファヴェーラ

ブラジルは今、空前の建築ラッシュで、新たに商業ビルやマンションがあちこちに建設されているが、それでも需要に追い付かず、不動産価格はここ数年右肩上がりが続いており、バブル現象が顕著になっている。
その一方で、ブラジルの人口の35%にあたる、低所得層(D,E層)の人たちの75%(5千万人)がファヴェーラと呼ばれる、スラム街に住んでいる。
ファヴェーラは、大都会の市内にある、地権のあいまいな土地に、いつの間にか人が入り込み、短期間の内に、無数の板葺きやレンガ剥きだしの小さな家屋がスペースを占領してしまう。
土地の持ち主が不在なので訴える人もなく、いつの間にか、万単位の人たちが住みついて、一つの集落と化してしまう。その内「国民は全て平等にインフラの権利あり」という法律に則って、市役所によって電気水道が引かれ、いつの間にか定住が認可されたような形になってしまう。

高級住宅地に隣接するファヴェーラ(スラム街)

都心に近い場所にファヴェーラがはびこるのは、地理的により職にありつき易く、何かと生活に便利だからで、リオ・デ・ジャネイロやサンパウロには、このようなプロセスで発生した、高級住宅地域に隣接している大規模なファヴェーラがいくつかあり、その景観は極めて奇異なコントラストを表している。
ファヴェーラの人口は、出生率の低下、内国移民の減少とブラジル経済の発展が相まって、この10年間に16%減少したものの、今なおこの国の最大の問題点の一つであることに変わりはない。
新大統領ジルマ・フセ女史は、就任直後から「わが人生とマイホーム」と名打ったキャンペーンを展開しており、低所得層の人たちが、簡素ではあるが、長期月賦で安価にマイホームを手に入れることが出来るシステムを、民間建設会社の協力を得て、国を挙げて推進している。
地方の町に行くと、ファヴェーラはほとんどなく、住居は大都会に比べ、家の敷地も大きく建坪もゆったりと余裕がある。日本に出稼ぎに来た日系人を雇用した中小企業の社長が、ブラジルを訪問してその従業員の留守家族を訪れたところ、寝室が4部屋もあって、日本の自分の家よりも数倍も大きいので驚いた、という話もある位だ。                  (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: その他、色々 パーマリンク

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