(55)ブラジル人の生活様式・II(食)

ブラジル人の活力源、ライスとフェジョン


昨今のブラジルは、工業面での発展が目覚しいが、今もなお、基本的には農牧畜国なので、先進国(特に日本)に比べると、食べ物は実に豊富で安価である。
ブラジルの所得階層は通常A,B,C,D,Eの5階層に分けられるが、貧困層といわれる平均月収が750レアール(3万5千円)のE層に至るまで、腹を空かせているブラジル人は一人も居ない、といわれる程、食べ物には恵まれている。
元来移民の国であるブラジルには、様々な民族がそれぞれの食文化を持ち込んでいるので、人口の15%を占めるA,B層の中には、多様性に富んだ食生活を楽しんでいる人たちもいるが、大部分の富裕層やC~E層の人たちは、人種の如何に関わらず(日系人を含め)、ある一定のパターンをもった食生活に馴染んでいる。
ブラジルで一般的に定食といわれる、最もシンプルなメニューは、レタスとトマトの野菜、ライス、煮豆、ビーフ(ポテトが付くこともある)である。日本だとさしずめ、ご飯、みそ汁、漬物付きの焼き魚定食といったもので、この献立だとブラジル人は毎日食べても飽きることがないので、これらの食材は主食といって差し支えないだろう。
中でも煮豆は、フェジョンと呼ばれる大豆と小豆の中間種のような豆を、圧力鍋で煮たもので、陸稲を炊き上げたパラパラするご飯と混ぜながら食べるが、ブラジル人の家庭では、365日、フェジョンが食卓に上がらない日はない。たんぱく質が豊富なフェジョンは、いわばブラジル人の活力源なのである。
フェジョンの煮かたで女性の真価が問われるといわれており、主婦によって塩味の他に、独自の隠し味を加えるようだ。
日本の演歌に「おふくろの味噌汁が恋しい」という文句があるが、ブラジルでも家を遠く離れて生活する人たちは、母親の作るフェジョンの味を恋しがる。おいしいフェジョンさえあれば、ご飯に混ぜて食べると、他に何もなくても食が進み、それだけでブラジル人たちは幸せを感じるのだ。

白人と黒人のカップルも「フェジョン・コン・アロース(煮豆とご飯)」と呼ばれる

私の最初の妻はブラジル人だったので、フェジョンは毎日の様に食卓に上がった。最初はそれ程おいしいとは思わなかったが、その内慣れてくるとフェジョンなしでは食事が何となく味気なく感じられるくらいハマッてしまい、今でも大好物である。
水曜日と土曜日は、このフェジョンが少し形を変えて、「フェジョアーダ」と呼ばれる料理になって供される。同じフェジョンだが、カリオッカと呼ばれる黒いフェジョン豆を使って、豚の臓物の切れ端などを入れたごった煮で、ブラジルの名物料理の一つになっている(参照:[29]ブラジルの代表的料理フェジョアーダ)。
ブラジルに「フェジョン・コン・アロース(煮豆とご飯)」という言葉がある。水前寺清子の「365日のマーチ」の歌詞にある、「一日一歩、三日で三歩」と同意で、「急がず慌てず一歩ずつ進もう」という意味で、のどかなブラジルらしく、実に味わいのある言葉である。

定食の定番。ライス、フェジョン、ステーキ、フライド・ポテト

肉は、ブラジル人たちの大好物である。肉料理の極め付きはシュラスコという、肉の塊に岩塩をまぶし、炭火で焼いたものであるが、それは日本で言えばいわば、スキヤキのようなもので、何か特別なことがあったときに食べる料理で、毎日食べる訳ではない(参照:[20]ブラジル人は肉食人種)。
毎日のように食べるのは、フライパンで焼いた一切れのステーキか、固めの肉を圧力鍋で煮込んだ料理で、ブラジル人たちは、肉の種類によって実に多彩な肉の食べ方を知っている。これも、肉の値段が安い(日本の約10分の1)からこそ生まれた智恵と習慣であろう。
動物性蛋白源は、牛肉が主流であるが、日替わりで豚肉、鶏肉を使うケースも多い。価格は、牛、豚、鶏の順で安くなる。近年になって、魚料理を食するブラジル人たちも増えているが、数的にはまだまだ肉料理の比ではない。
肉料理と相性のいいじゃが芋もブラジル人たちの主食の一つである。一口にポテトといっても数十種類あり、サラダ用、フライ用と煮物用では使う芋の種類が違う。肉の料理のレシピに応じて、様々なポテトの調理が施される。
元来ブラジル人たちは、余り野菜を食べる習慣がなかったが、肉を大量に摂取するので、バランスをとるために、野菜を食べる必要があることが啓蒙され、食するようになった。その一因となったのは、初期の日本移民が手がけた野菜栽培で、ブラジル全土に豊富に供給されるようになり、どこの家庭でも様々な野菜が食卓を賑わすようになった。日本移民はブラジル人たちの健康管理に大いに貢献した、ということになる。
イタリア移民が持ち込んだ、マカロナーダ(スパゲッティー)は、今ではすっかりブラジル料理化して、最も頻繁に食卓に上がる料理の一つである。特に週末になると家族全員が集まって、マカロナーダで食卓を囲むことが習慣化している家庭が多い。きっと一度に大量に作ることが可能な料理だからであろう。
イタリア料理といえば、ブラジル人たちはピザが大好物だ。サンパウロでは、一日で120万枚のピザが市民の胃袋に納まるという。ピザ専門店だけでも5800店ある。

一年中豊富なトロピカル・フルーツ

また、ブラジル人は果物を実によく食べる。低所得層の家庭でも、食卓の中央に、デザート用に、果物がたくさん入った籠が置かれている。スーパーや青空市場では、一年中、あらゆる種類のトロピカル・フルーツが溢れるように山積みされ、売られている。みかん、リンゴ、パパイア、パイナップルなど、ほとんど全ての果物がキロ単位で売られる。勿論値段は(日本に比べると)ベラボーに安い。
果物といえば、1990年代、私が、在日ブラジル人たちを対象に、ポルトガル語新聞を発行するために日本に滞在していた頃、静岡県浜松市にあるスーパーで、日本に出稼ぎに来て間もない日系ブラジル人2,3人が、店内でミカンやぶどうをムシャクシャやっているのを見た従業員が警察に通報し、大騒ぎになったことがある。それがキッカケになって、市内の全スーパーが、「ブラジル人警戒警報」を発令して、騒ぎがさらに大きくなった。
ブラジルでは、ミカンを(数ダース)買うときは店員が必ず味見のために一つ手渡してくれるし、ぶどうを2,3粒むしって味見をするのは当たり前で、店員が居ない場合は自分で勝手に取って味見をしても、とがめられることなどない。そんな習慣を知る由もない浜松のスーパー従業員は、「スワッ、タダ食い!」と驚いたのであろうが、ブラジルでは普通のことをしただけで、ドロボー呼ばわりされた本人のブラジル人たちは、もっと驚いたことだろう。
ブラジルの朝食にもパターンがある。一般家庭や、ホテルなどで供される朝食の定番は、先ず果物ジュース(たいがいオレンジかファッションフルーツ)に始まり、次にパパイア、パイナップル、メロンにスイカなど、一年中ある果物が供される。フランスパン、チーズ、ハムは必ず食卓に並び、保温機には、スクランブル・エッグとソーセージが入っている。勿論コーヒーとミルクが欠かされることはない。
これらの料理は、家庭内でブラジル人たちが日常的に食べる料理で、外食となると、また話は別だ。
移民の国ブラジルでは、外食をする場合は、あらゆる国の料理を供するレストランが軒並みにあるので、居ながらにして多様な料理が楽しめる。ちなみに、サンパウロには日本料理店だけでも350店ある。
一つ難点をいえば、ブラジルの一流レストランの値段はかなり高く、日本のそれと比べても、それほど差がないことだろう。(完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: その他、色々, (き)気候が快適, (ル)ルーツの多様性 パーマリンク

(55)ブラジル人の生活様式・II(食) への5件のフィードバック

  1. 北野 能成 より:

    2009年8月から11月までモジにいました。
    今のブラジルはそんなに食事は安くないのではないでしょうか
    帰って日本のほうが安いような気がします
    1981年から1983年の2年間もモジにいました。
    その時は食費はたしかに安かったです。
    もう一度モジにいきたいです。

    • mshoji より:

      コメントをありがとうございました。ブラジル(モジ)に居られたのはお仕事でしたか?食事はきっと外食が多かったのでは..確かに、ブラジルは、米、野菜、肉類、果物などの食材の値段は日本の1/5~1/10ですが、レストランで食べると、結構高いです。特に高級レストランの値段は、日本と変わらない店もあります。

      • 北野 能成 より:

        返事ありがとうございました。
        モジには仕事でいました。NACHI BRASIL    です。 2009年は、ブラジルで心臓病が発覚し ブラジルで手術するのが怖くて、日本に帰って手術しました。
        と言っても股からカテーテルを入れるもので、4日間の入院でした。経過は良好です。 2チャンネルのスレッドはひどいものが多く  貴殿の投稿はまともで、楽しみにしています。

  2. marquis より:

    ブラジルは肉大好きな私には最高でした、滞在中旨い料理ありがとうございました。
    日本人は他の文化を取り入れるのは得意ですが、イタリアは意外に苦手の様です、田舎に行くといまだに何百年と昼も夜も限られたメニュウの同じものを食べ続けてます、イタリアの他の地方の料理さえありません、そうゆう場所に長く仕事で滞在すると困りますが、必ず小さな中華料理店があり助かります。

    • mshoji より:

      イタリアの田舎料理って、どんなものがあるのでしょうか?ひょとしたら、ブラジルにも渡ってきているかも..

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