(53)ブラジルに純血の日系人が居なくなる?

ガイジン

ブラジルに到着した初期の日本移民たちは、この国の住民たちが(当然のことであるが)、自分たちとは全く毛色の異なる人種であることを目の当たりにして、違和感を抱いたことであろう。地方出身者が圧倒的に多かったこともあって、外国人と接触した経験がなかった彼らは、自分たちこそ外人であったにも関わらず、先住民たちを「ガイジン」と呼んで差別することから、ブラジルにおける生活が始まった(註:本文では便宜上、非日系人のことをガイジンと呼ぶ)。
日本人移民たちが配属された農場で接触のあったガイジンといえば、監督官と食料品販売店の店主ぐらいで、それ以外は、外見だけでなく言葉も異なるガイジンの労働者たちとは、積極的に接触することは避けて、距離を置いた。
しかし数年後、奴隷のような扱いを受けた農場から脱走したり、なんとか契約期間を全うした日本人たちは、それぞれが独自の力で生きてゆく道を見出す必要性に迫られたために、次第にガイジンたちと接触するようになっていった。そして非日系人を総称して「ガイジン」と呼んでいたものを、(便宜上)肌の色によって3種類に区別するようになっていった。すなわち白人を「ガイジン」、黒人を「コクジン」、白人と黒人の混血を「ハングロ」と呼んだ(ブラジルの法律では、人種を差別することを禁止しているので、この呼び方はあくまでも日本人社会内部だけに限られた)。移民たちが優先的に接触したのは、ガイジン(白人)で、その他とは余程必要性にせまられない限り、できるだけ距離を置いた。

ガイジン(コクジン)

日本で聞かされた労働条件が、現実とは大きくかけ離れており、一獲千金の夢が潰えた移民たちは、ブラジルでの長期滞在を余儀なくされ、独身者たちは結婚適齢期を迎えることになった。彼らの希望は、日本人同士の結婚であったが、独身者は男性が圧倒的に多かったため、日本人女性と結婚できる男性の数は限られており、あぶれた男性たちは、独身で通すか、ガイジンと結婚するか二者選択を迫られることになった。
ブラジルは歴史的に、異人種間での結婚は極めて当たり前のことであったが、ユダヤ人と日本人だけは、他人種との結婚を好まない例外的な存在だったので、日本人男性にとって、ガイジン女性との結婚には、かなり抵抗があった。

ガイジン(ハングロ)

初期の日本人移民たちが、ガイジンと距離を置こうとした理由は、いづれ日本に帰国するという望みを捨てていなかったため、同化の必要性を認めていなかったからで、子供たちにも、ガイジンと付き合うことを厳しく禁じた親たちが多くいた。
私の様な戦後移民の男性にとっては、幸いにして配偶者の選択に三つのオプションがあった。それは、既に適齢期に達している日系二世の女性たちがいたことと、もし望めば、日本から伴侶となる女性を呼び寄せることも可能であったからだ。もう一つのオプションはガイジン女性で、戦後教育のお蔭で、ガイジンに対するアレルギーもなく、例えば私のように、むしろ好奇心を抱いた者もいた。ちなみに私を含めた神戸高校卒の移住者7名が選んだ配偶者は、日本人女性3名、二世2名、ガイジン2名となっている。
しかし、戦後移民であっても日本の女性との結婚願望者が圧倒的に多く、私より7~8年前にブラジルに移住してきた男性たちの間で、日本から配偶者を呼び寄せることが流行った時期があった。当時は、簡単に日本に帰国出来る時代ではなかったので、写真交換だけで相手を決める方法が採られた。当時話題になった「花嫁移民」である。日本人女性にこだわる気持ちは解らないでもないが、何とも乱暴なやり方で、現に花嫁が到着してみたら、出迎えた婿殿は写真と実物に大差があるといって、結婚解消を要求した女性も少なくなかった。
私がブラジルで最初に知り合った女性は日系二世で、外見は日本人と全く同じで、流暢な日本語を話すにも関わらず、女性としての物腰は、日本の女性とは大きな差があった。特にレディーファーストの社会に慣れた彼女たちの男性に対する態度は、控え目でしとやかな日本の女性とは大きな差があり、それに幻滅した私は、将来の配偶者候補から日系二世の女性を完全に削除してしまい、付き合うことすら避けた。その一方で、しとやかさなど微塵も持ち合わせていない、セクシーで見栄えの良いガイジン女性との付き合いに、一生懸命になっていたのだから、矛盾した話だ。
オプションの一つである、日本の女性に関しては、同窓生で心を惹かれていた女性がいないではなかったが、ブラジルで自分と同じ苦労を味あわせるのは忍びないと思い、最初から対象外とした。そして結局、ガイジン女性と結婚した(「19」縁のあるリオの街、参照)。

日系混血の若者

同じような理由で、日本人男性移民がガイジン女性と結婚した例は結構多い。統計によると、日系人二世の混血は6%(三世は42%、四世は60%)なので、大雑把に言えば、独身移住者100人の内、6名がガイジンを配偶者に選んだことになる。
日本生れの男性とガイジンとの結婚は、国籍、文化、習慣や言語が異なる者同士が一緒になる、いわゆる国際結婚である。お互いに性的魅力を感じている間は問題は少ないが、年と共に文化・習慣の違いがあちこちに表れ、ほころびが生じはじめる。その結果、破綻したカップルの数は少なくない。

日系人との混血男性

ところが同じ日系人でも、ブラジル生れの二世、三世になると状況は全く異なる。彼らとガイジンたちは、同じブラジル国籍を持ち、文化を共有して、同じ言葉をしゃべり、幼少の頃から共に遊び、共に学んで成長した人たち同士である。すなわち、日系人とガイジンとの結婚は国際結婚ではないので、カルチャーショックに見舞われることはなく、人種の違いが原因で破綻するケースは極めて少ない。という訳で、日系ブラジル人たちの結婚観は、配偶者が同じ日系人であることにこだわらない。それでも二世の世代は、まだ健在していた日本人の親たちの影響力が強かったので、ガイジンとの結婚にはそれ程積極的ではなかったが、それでも40%がガイジンと結婚している。それが三世になると、まるで堰を切ったようにガイジンを配偶者に選ぶようになった。
その理由は、三世になると、ブラジル人であるという自覚が強く、日系人であるという意識は、相対的に希薄であることに原因があると思われる。それと同時に、周囲のガイジンたちも、日系人に対し、全く差別をしないことも影響している。
こうして、日系人男性が配偶者を選択する場合、日系人とガイジンを客観的に見て秤にかけた結果、ガイジン女性を選択するケースが多くなる、という訳だ。
一方、ガイジン女性の立場から見た場合、日系人たちの大部分が中産階級(国民の15%)に属しており、学校でも、社会人になっても勤勉で、経済的に安定した生活を手に入れる可能性が高いので、日系人男性のプロポーズを歓迎する女性たちが多い。

どこにでも居る混血日系人女性たち

いずれにせよ、世界中のあらゆる人種が揃っているブラジル社会で、日系人たちが配偶者を選択するオプションは実に多彩で、その中で、同じ日系人を選ぶケースが次第に減っていることは、日本民族にとって由々しき問題であろう。
ところで、日系人たちが配偶者を選択する基準は、どのようなものなのであろうか?日本の女性が(日本で)配偶者を選ぶコンセプトといえば、イケメン、人柄、優しさ、学歴、経済力、職業、家柄などであるとしたら、学歴・家柄を除いて、ブラジル女性とそう大差はない。一方、日系人男性に関しては、美人、セクシー、優しさなどが、配偶者選択の優先事項で、日本で求められる、「控え目」や「しとやかさ」などのキャラクターがそれほど評価されないとしたら、日系人女性にチャンスは少ない。
しかしよくしたもので、ガイジン女性は嫉妬深く、亭主を尻の下に敷こうとする傾向があるとして、ガイジン男性の間では日系人女性の「控え目キャラクター」を評価する人たちがいて、配偶者に選ぶケースが少なくない。いづれのケースも、結果的には混血の子供が生まれることになる。

混血日系人のテレビタレント

このようにして生まれた日系人とガイジンのカップルの間では、優性遺伝の法則が働いて、可愛い子が生まれるケースが多く、顔の彫りが深く、手足の長い、どことなく東洋的でガイジンっぽい、美男美女に成長する。こうして次第に日系人・ガイジンの差がなくなっていくであろうと思われる。
すなわち、日系人たちが好んでガイジンを配偶者にするというプロセスが進むと、早晩、日系人は全て混血ということになってしまう。言葉を替えれば、ブラジルにおいては、純血の大和民族は絶滅の危機に瀕しているのである。  (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
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(53)ブラジルに純血の日系人が居なくなる? への5件のフィードバック

  1. shoji6 より:

    Sr.Marcos Masakazu Shoji は絶滅危惧種ですか、そんなことはない希少価値種でしょう。日本人の勤勉さに加え、控えめ、淑やかさなど所謂謙譲の美徳、公序良俗の順守などはブラジルに限らず全世界で評価されている筈ですから、何とかかけらでも継続させる希少価値種としてご活躍下さい。

    • mshoji より:

      絶滅の解釈に少し誤解があったようなので、ブログの一部を修正しました。移民たちの血は100%大和民族のものであったのが、二世では10%が混血となり、三世40%、四世60%と混血が進んでいくと、新しい日本人移民でも導入されない限り、早晩100%混血になることは想像に難くありません。血が混ざると、容姿と共に、内面的なものも変わっていくでしょう。誠実、勤勉、正直など、日本人の移民たちがブラジル社会で根付かせた日本人の特徴は、ブラジルで(というか、どこの社会でも)通用することなので、混血が進んでも受け継がれてゆく可能性は高いと思われます。しかし、女性の「控え目」とか「しとやかさ」となると、純血の日系二世の女性でも既に失われていますし、「沈黙は金なり」「目は口ほどに物を言う」など、日本的な寡黙なキャラクターも、自分を主張することが主流の文化の中に、いずれは埋もれてしまうでしょう。その半面で、政治家や実業家など、ブラジルの日系人たちの進出がまだ余り顕著でない世界で活躍する人たちが、これからどんどん輩出するであろうと思われます。日本でも、これら古来のキャラクターが余り評価されなくなっていると聞きますが、私としては、せめて日本の国内では、ぜひ大切に受け継がれていって欲しいと思います。

  2. MARQUIS より:

    私の従姉妹を嫁にした男達(アメリカ在住)のその後:
    1)夫、イタリア系アメリカ人、妻は日本人で父の仕事の関係で大学までアメリカですごしたので、夫の亭主関白の夢破れる、二人でワイナリー経営。
    2)夫、日系で公認会計士、妻は日系3世で、夫は日本の商社で仕事をしたが、夫が夜の付き合いで帰ってこないので妻が怒り半年でアメリカへ帰る。
    3)夫、日系のハワイ人、妻は日本より嫁入り、今は妻はすっかりハワイ人になりレストラン、バーなど経営する、しっかり社会進出する。
    私は日系3世の従姉妹が一番古い日本人的と思いますが、3人共母親そっくりなので親の躾け、育て方も大きく影響ありです、最近のひどい親のニュースを聞くと日本の将来が不安です。

  3. kai より:

    2013年現在、日本におよそ20万人の日系ブラジル人(日系人の配偶者も含めて1世~4世、<注記>:3世の子供たちを含めるので4世)が住んでいますが、異人種間の結婚率をおよそ40%とすると、約8万人の日系ブラジル人は混血ということになるのでしょうか?

    約8万人の混血日系ブラジル人が日本に住んでいるとしたら、近い将来グラビアモデルやテレビタレントなどに、容姿のいい日系ブラジル人が多く進出するのは間違いないですね!!!

    すご~い!!!

  4. in より:

    初めまして、こんにちは。
    ブラジルの移民に興味のある者なんですが、結婚に関するデータの
    ソースを教えて頂いてもよろしいでしょうか?
    昔の記事に突然のコメント申し訳ありません。
    どうぞよろしくお願いします。

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