(38)ブラジル人気質とそのルーツ

陽気でおおらか、楽天的なブラジル人

ブラジルの一般的な国民の気質は、楽天的、陽気でおおらか、そして友好的である。このブラジル人気質といわれるものの原因の一つは、国土が広大で、気候的に大変恵まれており、主食である米、フェジョン(豆)、とうもろこし、タピオカなどがふんだんに収穫でき、あらゆる種類の果物も一年中豊富にとれることである。つまり、南部の一部の地域を除いて、一年中暖かいために、冬でも凍死することもないし、食べ物が豊富なので餓死することもないことが、ブラジル人たちを楽天的で大らかにしたようだ。

南米大陸はスペインとポルトガルがそれぞれ分け合って植民地にしたが、歴史的に、国境線での小さな小競り合いはあったとしても、お互いにおおむね友好的で、さらにヨーロッパの国々も距離的に遠いために、ちょっかいをかけることはあっても、本気で侵略を企てる国がなかったことにも、危機感にうといブラジル人気質の形成に影響を与えていると思われる。 

ムラタと呼ばれる白人と黒人の混血女性

もう一つの原因は、ブラジルを支配したのがスペインではなく、ポルトガルであったことだ。ポルトガル人は根っからの好色で、原住民のインジオの女性や、黒人奴隷の女たちに片っ端から手をつけ、多くの混血を生み出したことが、白人と黒人の友好関係のきっかけになり、それが原点となって今日の人種差別のないお国柄になったという説がある。

さらに19世紀になって、ヨーロッパから多くの移民が導入されたが、当時ポルトガル人支配下にあった環境で、混血を作り出す作業(?)の進行にますます拍車がかかり、混血国家が形成されていった。そして、どこの国から来た民族であろうが、友好的に受け容れる素養が育っていったと思われる。20世紀になって新たに導入された日本人移民と、ユダヤ人移民は当初、血の交わりに極めて消極的であったが、それもいつの間にか大勢に流されて感化され、今では日系3世の60%は混血である。

いずれにせよブラジルは、人種の如何に関わらず、他の民族には極めて友好的で、多分、日本人が世界で最も大きな顔をして街を歩き、尊重され、モテる国で、日本人にとって極めて居心地のいい国である。

白人系のブラジル人に先祖のルーツを尋ねても、大半は血が混じっているので、明確な答えが返ってくることは稀である。ただ、先祖のどこかの世代でポルトガル人の血が混じっている人たちが圧倒的に多いことだけは確かだ。

一方、南米大陸でスペイン人が支配した国々は、牧畜などが主体で、ブラジルのように、コーヒーや砂糖キビ栽培など、大量の人手を必要とする産業がなかったために、黒人奴隷の導入は少なかったことと、スペイン人は、白人優先意識が強く、積極的に原住民や黒人と交わることはなかったので、ブラジルの様に混血が進まなかった。これは、北米にもいえることで、ブラジルと同じように黒人奴隷を多数導入したアメリカで、アングロサクソンの男たちが、(例外はあったとしても)手当たり次第に黒人やインディアンの女に手をつけたという話は聞いたことがない。

女性に目がなかったポルトガル人開拓者

というわけで、ブラジル人の友好的で人種差別をしない気質は、元はといえば、ポルトガル人の女たらしに因しているという考え方も、あながち的外れではないかも知れない。ちなみに、私のゴルフ仲間に、ポルトガル人の親友がいるが、彼は女性には目がなく、黒、白、黄色の選り好みをしない性豪である。

スペイン人とポルトガル人の違いについて、もう少し言及すれば、スペイン人が熱狂する闘牛は、マタドールが命を賭けて猛牛に挑戦し、最後に血の中に倒れる牛を見て観衆はやっと納得する。その点、ポルトガルにも闘牛はあるが、馬に乗って華麗に牛を翻弄するショー的なもので、牛を殺すことはしない。この性格の違いは、南米大陸の歴史上に明確に現れている。南米大陸では過去に革命またはクーデターが数多く起きているが、スペイン系の国々における革命は、ほとんど例外なく流血革命で、血を見ずに収まったものは少ない。ところがブラジルだけは、過去の革命で流血があったことは一度もない。最後のクーデターは、私がブラジルに到着して4年後の、1964年に起きた軍事クーデターで、軍隊が出動したが、一発の銃弾も発射されることはなかった。クーデターに限らず、ポルトガルから独立したときも、アメリカのように独立戦争を起こしていないし、王政から共和制に変ったときも、戦争になることはなかった。奴隷解放にしてもアメリカの南北戦争のような諍いはなかった。全て周到な根回しによる「独立宣言」「共和宣言」または「奴隷解放宣言」といった「宣言」でドンパチなしに解決している。これを見ても、いかにブラジル人が穏便で平和的な国民であるかということが窺える。

ブラジルには二つの国があると、よくいわれる。一方は中産階級(15%)の世界で、他方は低所得層の庶民を指しているが、楽天的、陽気、大らかで友好的というブラジル人気質は基本的には、全国民に共通したキャラクターである。ただ、最近少しずつその表現の仕方に変化が現れている。その傾向は、国をリードする立場にある、中産階級に属する人たちに顕著で、ブラジルが、BRICSの一翼を担って先進国の仲間入りをしようとしていることに関係があるように思われる。通貨レアールの安定と、国際線フライトの大幅な増便とチケット価格の低下が原因で、ここ十数年で外国に出かけるブラジル人の数は激増した。彼らは国際社会で見聞を広げ、特に先進国をつぶさに観察する機会が増えたことによって、国際人としての意識改革に目覚めつつあるように思われる。

私は、1990年に東京に支店を開設した関係上、以後20年間に亘って、北米またはヨーロッパ経由で日本とブラジルを、年に数回往復するが、旅の途中で多くのブラジル人たちと出会う。90年代のブラジル人たちは、空港や機内で自らのブラジル人としての陽気さを故意に周囲にアピールするかように、大声でしゃべったり、騒いだりするものが多かった。ところが昨今では、そんなブラジル人は皆無である。機内では、一見しただけではどこの国の人か分からないほど、静かで行儀がいい。ポルトガル語を耳にして、初めてそこにブラジル人が居ることに気づく程だ。

以前は小賢しさだけが目立ったブラジル人ビジネスマンたちの、国際的な交渉もタフで機知に富み、垢抜けたものになっているし、どこか泥臭かった、国際舞台における外交官たちの態度も、どことなく堂々としている。そうなると、以前はノー天気と見られがちだったブラジル人気質が、近頃は余裕にすら感じられるから不思議だ。

時間がルーズ、というブラジル人の代名詞は、既に過去のものになりつつある。国際水準の規律というものを身につけることが、国際社会に仲間入りするための条件であることを、徐々に理解しつつあるようだ。

そんな彼らも、ブラジルの我が家に帰り、家族や友人たちと過ごす時間は、ブラジル人気質丸出しの、おおらかで陽気な国民になる。決して本質的に変ったわけではなく、T.P.O.をわきまえ、その表現方法がすこしスマートになっただけの話だ。

ブラジルの若者たちは愛国心が旺盛だ

最近のブラジル人たちの変化で、もう一つ特筆すべきことは、愛国心の高揚だ。一昔前までは、サッカーのワールドカップにおけるブラジル・チームの応援こそが、国民が一つにまとまる、愛国心の見せ場であった。ところが、昨今の若者たちは、自ら世界に足を運び、またはインターネットで世界をより知ることによって、ブラジルがサッカー以外にも様々な面で、世界に誇れる国であることを再認識し、自国と、ブラジル人であることに誇りをもつようになった。過去の「移民の国」から、世代交代が進行して、今では完全に「ブラジル人の国」に変貌し、一人一人の心の中に、確実に愛国心が根付いている。

一方、ブラジルにあるもう一つの国の人たち(いわゆる庶民)はというと、相変わらず素朴で楽天的、そしておおらかだ。

つい最近、地下鉄で母(40才位)と息子(17才位)の会話を聞くともなしに聞いた。「今度の連休だけど、電気代と電話代のためにとってあるお金で、サントス海岸に遊びに行こうか?」と母親。「電気を止められたらどうするの?」と息子。「2ヶ月間は切られることはないそうだよ。それまでに何とかするさ」「でも、サントスで食事とかのお金は?」と心配そうな息子。「叔母さんのうちで、毎日ご馳走になればいいさ」と母親。

そこで、電車が私の駅に着いたので、結末は聞き逃したが、きっとあの母子はサントス海岸に行ったに違いない。そして海辺のおおらかな叔母さんは、彼ら母子を大歓迎したことだろう。

私は、ブラジル人ほど博愛精神の旺盛な国民を他に知らない。それは低所得層の人たちになるほど、顕著である。困った人を見ると手を差し延べずにはいられない性格は、災害時に集まる山のような救援物資と巨額の募金に表れる。人前で食べ物を口にする時は、必ず先ず回りの人たちに勧める。レディーファーストは当たり前で、常に年寄り子供を優先させる。子沢山の夫婦が、みなし子を見ると、さらに引き取って育てるなど、快挙にいとまがない。それはポルトガル人開拓者たちに同行してこの国に上陸した、多数の宣教師たちの熱心な布教活動が功を奏し、今日でも国民の大部分がカトリック信者であることに多分関係があるのだろう。       (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: (き)気候が快適, (ジ)人種差別がない, (ラ)ラテン気質は陽気, (ル)ルーツの多様性 パーマリンク

(38)ブラジル人気質とそのルーツ への7件のフィードバック

  1. shoji6 より:

    ブラジルにはどうして人種差別が存在しないのかが判る貴重なシリーズとお見受けしています。これ程の多人種国家でしょうから、差別はなくとも嫌われ人種も多少は存在するのかな?と思ったりしていますがどうでしょう?余り詮索しないほうがいいのかな?とも・・・。

    • mshoji より:

      コメントをありがとうございます。ブラジル人たちに嫌われている人種というのは、まずありません。嫌うということは、一種の差別ですから、ブラジル人のコンセプトには無いものです。またブラジル人は、人種の特徴に関する関心が希薄で、識別の知識もないと思います。例えば、日本人、中国人、韓国人の見分けのつくブラジル人は、ほとんどいません。

  2. maria より:

    知り合いのブラジル人の青年をわけあって色々と手助けしています。友人の息子です。
    彼は気が良くてとても良い子なのですが、なにせ気がコロコロ変わり困っています。

    彼は今現在私たち家族と日本に住んでいて、日本語も堪能なのですが、とにかくアルバイト一つ探すのにもあれはやりたくない、僕は口下手だからとえり好みをします。友達は多いくせに。

    しかもとても容貌の良い子で、女の子もとっかえひっかえで、余りにも学校で注目を浴びすぎるため、とうとう日本の高校を中退してしまいました。折角サッカーの特待生だったのに、とても残念です。

    彼のような子はブラジルでは極普通なのでしょうか?彼のようなブラジル人の青年を上手に日本の風土になじませるような方法はおありでしょうか??

    もしブラジル人の子供にははこういう方法がいいですよ、という事などございましたら、
    是非とも返信くださいませ。

    • mshoji より:

      ブラジル人は一般的に束縛されることが嫌いで、自由を好む傾向があります。しかし、この性格は「わがまま」とは別物です。日本の社会には、ブラジルにはない不文律(もしくは常識)というものがあって、「日本の常識は、世界の非常識」ともいわれるように、外国人にとってそれを理解するまでに、とても時間がかかります。そのブラジル人青年は、日本の習慣がまだ理解できていないのだと思います。しかし、誰かが時に応じて説明してあげると、それだけ理解するのが早くなると思います。しかし、そこで気をつけなければいけないのは、決して押し付けではなく、愛情をこめて話し合うというスタイルをとることが肝要です。ポルトガル語で「CONVERSAR」というのですが、ブラジル人は「話し合い」をとても好む国民です。話し好きのブラジル人に比べ、日本人は一般的に寡黙で口下手ですが、ぜひ出来るだけ多く、話し合う機会をつくることをお勧めします。

  3. 下前原勝憲 より:

    ブラジルに永住しブラジル人とビジネス取り引きなどをじかに体験した時ブラジル人の国民性に気がつきます。

    • mshoji より:

      治安に関しては、日本は世界中のどの国よりも治安の良い国であることは、日本人が海外に出ると痛感すると思います。ブラジルが他の国に比べて特に治安が悪いというわけではありませんが、強いて昨今について言えば、12年間続いた労働党の汚職、賄賂の横行による悪政が、極端な不景気をもたらし、貧困層の失業率が急増したために、犯罪が増加したということは否めません。しかし国民の総意で去る9月に大統領を罷免するという、無血革命の成功で国の経済は回復傾向にあるので、早晩治安面も良化するであろうと思われます。オリンピックの前に、ブラジル訪問の際の注意を促すために、NHKによる、ブラジルでは全ての街角でスリやひったくりが横行しているかの様な報道がありましたが、あのDVDは犯罪シーンだけを集めて編集されたもので、決して現実のものではありませんので、為念。

  4. Non より:

    興味深い記事をありがとうございます
    ブラジル人の友人が多く
    彼らの陽気さと優しい人柄が大好きなのですが、治安が悪いのは何故なのでしょうか?

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