(37)猛魚ピラニアの超能力

猛魚ピラニアは超能力の持ち主だ

鋭い鋸歯と頑強な下顎がピラニアの武器

ピラニアは、アマゾンやパンタナルの川ならどこにでも居る。同じピラニアでも数種類あるが、最も特徴的なのは黄色ピラニアで、体型も厚く、鋭い鋸歯と強靭なアゴを持っている。この黄色ピラニアは水域優勢種の魚で、彼らがいる水域には、他の魚はほとんど生息しない。

私は、アマゾンやパンタナルの色々な川でピラニア釣りをしたが、パンタナルのネグロ河流域にあるバハ・マンサ農場での黄色ピラニア釣りが、最も印象的だった。

サンパウロから2時間のフライトで、南マットグロッソ州のカンポ・グランデに着く。そこから、4人乗りの小型セスナ機に乗換え、北西に向かって225km飛ぶと、ネグロ河とカステロ川の交流点の上空に達し、そこだけジャングルを切り開いて孤立した土地に、赤い屋根と白壁の、バハ・マンサ農場の建物が見える。セスナ機は、農場内の滑走路に静かに着陸した。そこは、完全な陸の孤島で、陸路によるアクセスは出来ない。

セスナ機から降りると、Tシャツと半ズボンの、太った髭面の大男が待ち構えていた。オーナーのロンドン氏だ。自ら運転する4WDの車で宿舎へ向かう。滑走路の両側はすぐジャングルで、道路に張り出した枝に、紫色の巨大なルリコンゴウ・インコがずらりと並んで、何やらシャベリながら我々を歓迎してくれる。前方の川べりには、ピンクのヘラサギの群れが、首を伸ばして興味深かげに、我々の到着を眺めている。

宿舎は平屋が一棟あるだけで、6組も泊まれば満杯だ。ホールと食堂は別棟にあるが、それらのスペースとオーナーの住居との区切りがはっきりしない。きっと、家族的に一緒に過ごそうという意図があるのだろう。

黄色ピラニアを釣り上げてご機嫌の筆者

翌日は早速、朝から夫婦二組でピラニア釣りにでかけた。真っ黒に日焼けした、麦わら帽子の船頭が、櫓を操って川べりから「矢切の渡し」のような木の小船でネグロ河に漕ぎ出す。川幅が70~80メートルのネグロ川は、ゆったりと流れており、その名の通り水が黒く、水深は50センチくらいしか見えない。黒い水の原因は、源流の透明な水が、延々と下流に向かって流れてくる間に、落ちてきた無数の木の葉や木の実などが溶解して変色したためだという。川が少しカーブする場所で、船頭は舟を留め、錨を沈めた。いよいよ、ピラニア釣りの開始だ。

竹竿が配られる。餌は肉片だ。指を失いたくなければ、釣り上げた魚を、素手で針から外さないようにと、船頭から注意がある。

船頭を含め、全員が竿をたれた。最初に船頭の竿がしなった。無造作に竿を引き上げる。魚は水際でイヤイヤをするように身体をくねらせて抵抗するが、次の瞬間には空中にその姿をさらす。体長30センチ程の黄色ピラニアだ。船頭は糸をたぐりよせ、魚の頭を掴み取る。上顎に引っかかった大きな針を、ヤットコで慎重に取り外す。鋭い鋸歯と突き出た頑丈な下顎は、猛魚の名に恥じない獰猛な面構えだ。船底に横たわるとジタバタせずにじっとしている。中々胆の据わった魚のようだ。

最初のピラニアをゆっくり鑑賞する暇もなく、次々と全員の竿先が水面に沈む。もう入れ食い状態だ。面白いように次々と魚が釣り上げられる。ピラニア釣りにテクニックは不要だ。生まれて初めて魚釣りをするという女性たちまで、次々と大物を釣り上げる。皆、喜色満面で、歓声が絶えない。気の毒なのは船頭で、ヤットコ片手に右に左にてんてこ舞いだ。あっという間に、50匹は釣り上げたであろうか。

水が黒くて見えないが、餌食い状況から推察するに、川底には腹を空かせたピラニアがウジャウジャと群がっているに違いない。余り釣れるので、その内、感動が薄れてくる。そうなると、そろそろ潮時だ。大部分の魚を川に戻し、船頭は十数匹だけをバケツに入れて、碇をあげた。

ワニの動きは俊敏だ

船は次の目的地、ワニのいる砂浜に向かった。十数匹の体長2メートルはあろうかというワニたちが、のんびり昼寝をしている。船頭がワニの群れに向かってピラニアを投げた。すると驚くべき現象が起こった。

寝ていた筈のワニたちが、目も覚めるようなすばやい動きで反応し、ピラニアに飛びついたのだ。船頭が次々と魚を投げる。ワニたちの動きはますます鋭くなり、しぶきをあげて我先に魚に飛びつく。彼らも腹を空かせているとみえて、それは想像を絶する修羅場であった。

その日の体験で、間違ってもピラニアとワニのいるパンタナルの川には入るべきではない、と全員が背筋を寒くしながら思ったものだ。

日本には、「ピラニアは臆病な魚で、自分より大きな動物を襲うことはない」と書かれた文献があるが、帰りの船の中で船頭が語ってくれたピラニアの習性とは、いささか違うようだ。

船頭によると、ピラニアには襲う獲物を見分ける超能力が備わっていて、通常は泳いでいる人間とか、川を渡る動物、もしくは泳いでいる大きな魚などを襲うことはないという。しかし、彼らには川を渡っている牛の群れの中で、弱っている牛とか、けがをしている牛を見分ける能力があり、それを見つけると一斉に襲い掛かるそうである。川でおぼれかけている人間がいれば、ピラニアはアタックするし、針にかかってもがいている大きな魚がいれば、釣り上げられる前に骨と皮にするくらい、ピラニア軍団はすばやく仕事をする能力を持っているとのことである。

このピラニアの、弱った牛や、病気の牛を見分ける能力についての解明は、未だなされていないようであるが、いずれにせよ、あまり泳ぎが得意でない人は、パンタナルの川で泳がない方が無難である。ピラニアに、まちがっておぼれていると勘違いされると、命を落とすことになりかねない。            

ピラニアには別の意味もある

バハ・マンサ農場で釣り上げた黄色ピラニアは、全部水に戻してしまうのが勿体ない程、丸々と太っていた。日本人であれば、さしずめ刺身やから揚げにすることを思い浮かべるところであろうが、ブジルにはピラニア料理というものがほとんどない。あるのは、ピラニアをぶつ切りにしたものを煮込んだスープ位だろうか。その理由は極めて単純だ。同じ川で、パクー、ツクナレ、ピンタードなど、もっと肉厚で、小骨が少なく、美味しい魚がいくらでも捕れるからだ。

余談になるが、ピラニアという言葉は、ブラジルでは「あばずれ女」を意味する。女性を悪く言ったりする時や、痴話喧嘩などが嵩じてなじりあいになると、往々にしてこの言葉が男の口をついて出る。 (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: その他、色々 パーマリンク

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