(36)宝石と鉱産物のデパート、ミナス州

鉄鉱石の山々。山そのものが錆びている。

リオ・デ・ジャネイロから車で国道40号線を北上し、右手に古都オウロ・プレート市を望む地点を過ぎた頃から、周囲の風景が一変する。それまで、緑に覆われていた山々や草原から、徐々に緑色が失われ始め、遂には一切の草木が姿を消してしまう。左右に迫る山々は全て錆び色で、ほとんど生命の兆しが感じられない。国道はゆるやかな上り坂にさしかかった。すると突然、快調に飛ばしていた車が、エンジン・ブレーキがかかったように減速を始めた。あわててアクセルを踏み込んでもエンジンが反応しない。ガス欠?燃料メーターに目をやるが異常はない。しばらくその状態が続き、山間を抜けると車は再びはじかれたように、パワーを取り戻した。

目的地のベロ・オリゾンテに着いてから聞いた話によると、私の車は、鉄の含有率が90%を越える鉄鉱石の山々の真っ只中を縦断する道路にさしかかり、その辺り一帯に発生している磁気のために、車が引きつけられ、減速した、ということのようであった。

最初の就職先、サンパウロの輸入商社が開設したリオ・デ・ジャネイロ支店の初代責任者となり、リオ以北の市場を任されて、最初のミナス・ジェライス州への出張であった。

ミナス・ジェライス州はその名のとおり、鉱産物のデパートのような州で、オリンピックのメダルを独占したように、金銀銅鉄の埋蔵量豊かな鉱脈が走り、ダイアモンド、エメラルドなどの宝石、アメチスト、トッパーズ、トルマリンなどの貴石といわれる原石が無尽蔵であることで知られている。州の面積は596,528km²(日本は377,930km²)で、フランスの国土に匹敵する。

ブラジルの鉄鉱石の埋蔵量は、ロシア、中国に次いで世界第三位で、産出量は3億3650万トン/年と中国に次いで世界第二であるが、ブラジルの鉄鉱石は品質が高く(中国は7億一千万トンを産出するが、質が悪く実質的には3億3千万トンとされている)実質的には世界一である。埋蔵量は定かではないが、世界で消費する鉄鉱石の200年分は優にブラジルに埋蔵されているという。

純度90%以上の鉄鉱石が道端にゴロゴロしている

そんな鉄の純度が高い山々を見ていると、鉄の塊である山そのものが、錆付いているように感じられ、圧倒される。昔、小松左京(神高の先輩らしい)の「日本沈没」という小説を読んだ。鉄を見れば、手当たり次第に食い荒らす怪物が日本に出現し、そのせいで日本が壊滅するという筋書きだった。それをふと思い出し、もし舞台がミナス州であれば、その怪物はきっと食べ過ぎの中毒になって、自ら滅んだであろう、などとたわいもないことを考えたりした。

その、鉄不足になると滅ぶという国、日本の鉄鉱石輸入量は、年間1億3900万トン/年で、中国に次いで世界第二である。日本がブラジルと仲良くすべき、理由の一つであろう。

緑と黄色のブラジルの国旗には、州の数と同じ27個の星で構成された複数の星座が描かれている。その中の南十字星を構成する5つの星は、サンパウロ、リオ・デ・ジャネイロ、ミナス・ジェライス、バイアとエスピリット・サント州を表しており、いずれも歴史的にも、また現在においてもブラジルにとって最も重要な役割を果たしている州である。ミナス・ジェライス州は18世紀に、金を始めとする鉱産物の採掘で、本国ポルトガルを潤した功績は大で、現在も、サンパウロ、リオ州と共に、ブラジル経済の屋台骨を支えている。

ブラジル初代の女性大統領に選出されたジルマ・ロウセフ


またこの州は、いわゆる「憂国の志士」とでもいうべき、国粋主義者の大物政治家を多く輩出し、過去に、ブラジルの運命を左右することになった革命に、いつも関わってきた。例えば、1930年の旧共和制を打破する革命、1980年の軍事政権の終焉につながった革命は、その後のブラジルに方向付けをもたらした。1964年から20年間続いた軍事政権に終止符を打ち、大統領直接選挙制が実施されることになったきっかけは、1983年にミナス州が先導した運動であった。また、ミナス州出身の政治家としては、軍事政権終焉後、再開された最初の大統領選挙で民間から選出されながら、就任直前で病のために逝った悲劇の政治家、タンクレード・ネーベスは余りにも有名で、今回ブラジル初の女性大統領に選出された、ジウマ・ロウセフ女史もミナス州ベロ・オリゾンテ市の出身である。

山間の大都会。ミナス州の州都ベロ・オリゾンテ

ミナス州の州都は、人口245万人のベロ・オリゾンテ市である。道路が縦、横、斜めに整然と走っている街で、サンパウロやリオに比べると、人と車の動きが、ゆったりしていて、あわただしさがない。ミナス人気質をそのまま反映させたような落ち着いた街である。サンパウロ市から586km、リオから429km、首都ブラジリアから716kmの恵まれた場所に位置するこの都市は、ブラジルにおける一つの重要な経済・産業の拠点である。

私は、リオ支店からは車で、毎月一度の割合で、ベロ・オリゾンテに出張した。当時、販売していた商品は、まだ新製品のテープレコーダーであったが、当初、ベロ・オリゾンテ市は大都会にしては、販売台数が伸びずに苦労した。それは、保守的な土地柄が原因で、販売店は新しいものに懐疑的で、リオやサンパウロのように、新製品の受入れに余り積極的ではなかった。徐々に販売実績を上げながら、仕入れ台数を増やしていく、いわゆる石橋を叩いて渡るやり方が、ミナス商人の特徴であるが、もともと潜在購買能力は大きな町なので、次第に販売は伸び、その内、支店扱いの町では、リオ市に次ぐ売上げを計上するようになった。

18世紀のたたずまい。古都オウロ・プレート

その後、私が独立して旅行社を経営するようになってからも、ミナス州との縁は切れることがなかった。それは、ベロ・オリゾンテから96kmのところにあるオウロ・プレート市、70kmにある、コンゴーニャス市が歴史ある古都として観光名所になっているからだ。特にオウロ・プレート市は、ベロ・オリゾンテの前の州都で、18世紀に、金を主体とした鉱産物採掘の中心地にあって、ポルトガル本国と密接なつながりを担う拠点として繁栄した街で、世界文化遺産に登録されている。石畳の坂道に並ぶ、白壁に大きな格子窓が特徴の家々は、今もなお植民地時代の街並みをそのままに保つ古都として、観光客の人気を集めている。

私は、「歴史の街巡り」というパッケージ・ツアーを組んで、日本人駐在員の家族たちを集め、定期的にベロ・オリゾンテを訪れた。古都以外の観光地としては、ベロ・オリゾンテから292kmの場所に、ヂアマンチーナ(ダイアモンドの街、の意)がある。今もなお、ダイアモンドの原石が採掘されている街として有名で、ある時、駐在員家族たちのツアーで訪れた採掘現場の小川で、人夫が直径1センチくらいの、黒いダイアモンドの原石を見つけた場面に遭遇したことがある。素人では普通の小石と見分けがつかないような何の変哲もない石ころだったが、ガイドの話によると、研磨すると数千ドルになるものであったらしく、駐在員の奥さん連中から溜息がもれていた。

ブラジルの貴石。現地では信じられない位、安価である。

この地方から採取される石は、ダイアモンドだけでなく、アメチスト、トッパーズ、トルマリンなどがあり、ツアーのバスが止ると、手提げ鞄をかかえた、あまり見栄えがパッとしない男たちが近寄ってきて、紙で四角に折られた小さなパッケージを開き、中味の貴石を見せて、乗客に勧める。彼らは、色とりどりの大粒の石が10数個入っているものを「ワン・パックいくら」で、値段を競って提示する。交渉次第で言い値の半分以下で買えることもあるが、かといって、商品がまやかしである訳ではなく、現地直産の良質なものの場合がほとんどである。試しに買ってみた駐在員の奥さんは、日本で市販されている同じ大きさのアメチストやトッパーズに、20倍以上の値段がついているのをみて、驚いたという。

宝石・貴石と並んで、ミナス州のもう一つの名物といえば郷土料理である。ミナス州の料理は、ブラジル料理を代表するものの一つで、野菜や穀物類、それに鶏、豚、牛肉を単に煮たり焼いたりするだけでなく、様々な工夫を凝らして作られているのが特徴である。18世紀に同地方で起こったゴールドラッシュのために、ブラジル全土から集まった人たちが持ちこんだ、それぞれの地方料理がヒントになって、ミナス独特のリッチな料理が生まれたといわれている。また、昼食と夕食の他に、朝、午後、夜半に間食を摂る、一日5食の習慣が、女性たちがバラエティーに富んだ料理やデザートのレシピを考案することに一役買ったようだ。日本でもおなじみの「ポン・デ・ケイジョ(チーズ・パン)」の発祥地は、ミナス州である。また、食前酒として愛飲される、上質のピンガ(砂糖キビの蒸留酒)の主な醸造元は、ミナス州に集中している。

「ミナス女の深情け」は、その道に明るいブラジル人男性の間ではかなり有名である。海岸線から内陸に入れば入るほど、人々は外部から来る人たちに対して親切で優しくなる傾向がある。それに山間部に生活する人たちは、娯楽が少ないので、セックスに関しては早熟になりがちで、若い女性の成熟度が高い。ミナスの女性たちが、男性から見ると一味違って、特別に感じられるのはそんな理由からかも知れない。                           (完)

                             

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
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