(20)ブラジル人は肉食人種

肉の分布図。それぞれの肉に特有の味がある。

 

シュラスコ専門店ではこのような串焼きが主流

ブラジルに到着して間もなく、会社の先輩が昼食に誘ってくれた。定食サービス専門の極くポピュラーなレストランで、先輩がボーイにポルトガル語で何やら注文した。間もなくテーブルに運ばれてきたのは、幅が優に20センチを超え、厚みが2センチもある、特大のステーキだった。上に卵の目玉焼きが二つ乗っかっている。名前は「ビッフェ・ア・カヴァーロ(乗馬ステーキ)」とのこと。なるほど、ステーキを馬の背に見立てると、目玉焼きが跨るように乗っかっている。私は、思わず目を丸くした。日本の我が家で肉が食卓にあがるとすれば、せいぜい肉ジャガとか、ビーフ・カレーに混入されたもので、極めてまれにスキヤキに遭遇することはあっても、ステーキというスタイルでお目にかかったことはない。私は見よう見まねで物体の左端にナイフを入れ、やや大きめの一切れを口に運んだ。未知の味が口に広がる。

「これが、ステーキの味だっ!」感動的であった。中ほどに達すると、半熟の卵の黄身がとろけだし、肉にからまって何とも美味だ。

それがブラジルでの、肉との最初の出会いであった。先輩の手の伝票をのぞき見ると、約350円の定食より、少し高い程度だった。

二度目のステーキは、社員の中では最も金周りのいいセールスマンの奢りで、ダウンタウンのリオ・ブランコ大通りにある、グアシアーラという一流のステーキ専門店に行った時だ。四角くカットされた、厚みが4センチはあろうかという見事なステーキが運ばれてきた。外はまんべんなくこんがり焼けている。ところがナイフを入れると、ジワッと血が滲みでてきた。

「先輩、これって生焼けですよね」と、私。

「いや、最高の肉の味は、この焼き方、レアで味わうのだよ」と、したり顔のセールスマン先輩。

早速カットして口に運んだ。この前に食べた「乗馬ステーキ」とはあきらかに肉の味と歯ごたえが違う。その時、初めて一口に牛肉ステーキといっても、その質はピンからキリまであることを知った。値段も「乗ステ」の3倍はするらしかった。

それ以来、私の肉食への興味はどんどん深まっていった。今でも、大好物で、肉を食べない日は、なんとなく口が淋しい。

農牧畜国のブラジルは、人口1億9千万人に対して、牛が2億1千万頭飼育されている。年間に屠殺される牛の数は1億8千万頭といわれているので、単純計算するとブラジル人は一人当たり、年間に牛を1頭平らげることになる。

ブラジルの肉屋。客はキロ単位で買ってゆく

ブラジルの肉屋に表示してある値段は、全てキロ当りのもので、通常ブラジル人たちは、肉をキロ単位で買う。ある日本人駐在員が、肉屋の価格票を見てすばやく円換算し、「ブラジルは結構肉が高いですね」と言った。彼は、その値段を日本と同じように100グラムのものと思った、という笑い話がある。肉は牛の部分によって値段が異なるが、大まかにいうと1等肉から3等肉に分類される。値段は1等肉だとキロ当り30レアール(約1400円)で、3等肉になるとキロ12レアール(約580円)である。

ブラジルの牛肉が安価なのは、その飼育法に起因する。主流は広大な土地を利用した、手のかからない放牧方式で、一頭当たり1ヘクタールが必要といわれている。この方法だと、牛は常に歩き回るので、贅肉がつきにくく肉に脂身がすくない。大量に肉を食するブラジル人たちは、日本で霜降りと称して珍重される脂身の多い肉を敬遠する。コレステロールの元凶だからだ。

ブラジル人たちが最も好む肉の食べ方は、シュラスコだ。串に刺した肉の塊を、炭火でじっくりと焼いて食べる。味付けは岩塩を砕いたものを振りかけるだけというのが主流だ。一流のシュラスコ専門店では、ボーイたちが、大串に刺した、こんがりと焼けた肉の塊をテーブルに、次々と引きもきらずに運んできて、客の皿に鋭利なナイフで一切れずつ削ぎ落してゆく。肉の種類は10種にも及ぶが、それぞれの肉に特有の味があって、客の好みもまちまちだ。一切れが100グラムとしても、全種を味わえば1キロになる。とても食べ切れるものではないので、自分の好みの肉のみを皿に受入れ、それ以外は「ノー」と断ることが必要である。高級シュラスコ店では、羊、バッファロー、野ブタなどの肉もサービスされるが、お勧めは、牛の尻(ピッカーニャ)、太モモ(アルカトラ)、内モモ(フラウジーニャ)などで、いずれも脂身が少なく、歯ごたえがあって味わい深い。テンダーロイン(フィレ)、サーロイン(コントラ・フィレ)は、ステーキには向いているが、柔らか過ぎてシュラスコには不向きである。また皿に削ぎ落された肉を全て口に入れるのは素人の食べ方だ。通になると、少し味わっては残りを皿の上の方に押しやって溜めてゆく。一杯になれば、ボーイを呼んで、新しい皿と交換してもらう。このようにすると、自分の好みの肉を、いつもアツアツで味わえるという訳だ。

「残さずに食べる」という、(日本の)美徳に慣れた日本人には、やや抵抗があるが、そこは郷に従うのが得策だ。

シュラスコは男の料理だと言われている。ブラジル人の男たちは、来客があってシュラスコを饗するとなると、ガゼン張り切る。自ら素材の仕入れに出かけ、肉を吟味する。仕入れ量の目安は、一人当たり500グラムだ。肉のカットと塩加減は、最も大切な作業なので女性には手を触れさせない。炭火をおこして炉を整えるのも男の仕事だ。焼き方にもそれぞれの流儀がある。串に刺す人もいれば、網焼きを得意とする人もいる。いずれも、外がこんがり、中がレアに仕上げるのがコツで、男たちは、肉から目を離したり、手抜きをしない。それでいて、客に饗する前に美味しい部分は、味見と称して口に放り込みながら作業するので、役得の恩恵はチャッカリと蒙っている。

ピカーニャと呼ばれる尻の肉。1,5~2kgの塊が食べごろ


私もシュラスコを得意料理の一つとしている。ウチの牧場には特大のシュラスコ専門炉を設えている。私が好んで使う素材は、ピッカーニャと呼ばれる部分で、牛のお尻の肉を取り外し、さらにその先端の三角形の部分のみを切り取った、約2kgの肉塊である。これを5センチの厚みでステーキ状にカットし、岩塩を振って少しねかせる。炉の炭火がカッと真っ赤にいこったところで、手を差し延べ、5秒まで我慢できるくらいの距離が最適の網の位置だ。肉を乗せ、肉汁が出だすと、タイミングを見て、2,3回ひっくり返し(これが結構難しい)、表面がこんがりで、中がまだレアの状態で、まな板に取り上げる。それをマグロの刺身を切る要領で、厚めの刺身大にカットした小片を、各客の皿に2,3切れづつ落としてゆく。これを繰り返すことによって、客は常にアツアツで、最高の肉の味を楽しめることになる。ステーキにすると、300グラム以上は食べれない肉も、この方法だと、誰でも500グラムは軽く平らげてくれる。

自ら、「サムライ・カット」と名付けたこのシュラスコは、肉にはうるさいブラジル人たちにも大好評で、私の自慢料理の一つである。  (完)

我家のシュラスコ専用炉(中央)右はピザ炉、左は旧式の薪炉

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
カテゴリー: その他、色々, (す)スケールが大きい パーマリンク

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