(6) サッカー王国ブラジル・その強さの秘密

ブラジル代表を応援するサポーターたち

W杯を唯一5回獲得し、サッカー王国といわれるブラジルの強さの秘密はどこにあるのだろうか?この国に50年在住している私なりに、その理由を分析してみたいと思う。

先ず、その層の厚さであろう。全国にあるプロチームの数は800、登録されているプロ選手は、1万8千人いる。

2008年に国外に流出したブラジル人選手は、1898人で、内1676人がヨーロッパ、222人がアジアであった。最近、長友選手や本田選手など、ヨーロッパでプレーしている日本人選手も数名いるが、ヨーロッパでトッププレーヤーとして活躍しているブラジル人選手の数は、実に100名を下らない。
彼らの移籍金の総額は440億ドルで、ブラジルが輸出する農産物のバナナ、リンゴ、ブドウの総額に匹敵する。サッカーは、ブラジルに多額の外貨をもたらす一大産業なのだ。

このように多数のサッカー選手が輩出される背景について、私見を述べて見たいと思う。

ブラジル人の69%が白人であるにも関わらず、プロサッカー選手は、黒人もしくは、パルド(黒人との混血)が圧倒的に多い。北米のフットボール、バスケットボール、陸上競技などのスポーツ選手にも黒人が多いことから考察すると、黒人はスポーツに対する身体能力が白人(もしくは黄色人種)より勝っていることが考えられるが、北米はさておいて、ブラジルに関しては、身体能力以外に、社会構造が大きな原因になっていると思われる。

ブラジルの所得階層は通常A,B,C,D,Eに分けられるが、その比率はA/B・16%、C・49%、D/E・35%で、一人当たりの月平均所得は、A/B・1500ドル、C・750ドル、E/D・430ドルである。各階層で黒人が占める割合は、A/B・5%、C・20%、D/E・70%となっており、またブラジル全体の文盲率は18%であるが、黒人の文盲率は35%にのぼる。このように、ブラジルの黒人は、白人に比較して、社会的に恵まれていない。彼らにとって、この国で高額所得が得られる数少ない道の一つが、プロサッカー選手になることなのだ。そこにハングリー精神が生まれ、目の色を変えて、サッカーに取り組む若者たちが、跡を絶たない理由がある。

白人の子供たちの夢もサッカー選手

国全体が熱烈なサッカーファンであるブラジルでは、所得階層と肌の色に関係なく、男の子が描く最初の夢は、サッカー選手になることで、物心がついた男児に親が最初にプレゼントするのは、サッカーボールである。ヨチヨチ歩きでボールを追いかける息子を、父親は目を細めて見守る。

子供たちは成長するに従って、活動範囲が広がる。白人の子弟は、経済的に恵まれているので、サッカー以外にも、スポーツ・クラブなどで、他のスポーツにアクセスする機会がある。社会人になって職業を選択する場合も、大卒が多い白人は、様々なオプションがある。一方の黒人子弟たちが親しめる唯一のスポーツは、空き地や砂浜でもできるサッカーで、その他のスポーツにアクセスできるチャンスは極めて少ない。また大学生の1割にしか満たない黒人は、職業の選択肢も限られている。

黒人たちにとって、プロサッカー選手になることは、自らを社会にアピールできる数少ないオプションであり、最大の夢なのである。それを手にするまで、容易にあきらめない理由は、その辺りにあると思われ、結果的にサッカー選手に、黒人とその混血が多いのではないかと思われる。

子供のサッカーは裸足が基本

この社会構造から、「瓢箪から駒」現象が生まれ、ブラジルの高いサッカー技術の一因になっていることは、余り知られていない。空き地や、砂浜でサッカーに興じる子供たちは、総じて裸足で、シューズを履いている子供は一人もいない。結果的に、これがブラジルの選手たちの、魔術師のように、足による絶妙のボールコントロールを可能にし、どんな状況で、いかなる体勢からも、足の芯でボールを捕らえてシュートできる要因になっているのであるが、実は彼らは貧乏なために、元はといえば、シューズを買う金がなくて、履きたくても履けなかったというのが真相である。

そのことに気付いた指導者たちが、10才が過ぎるまで子供たちにサッカーシューズの使用を許可しない指導法が、ブラジルでは主流になっており、今では、どんな子供でもそのことを知っていて、たとえシューズを持っていてもサッカーをする時は脱いでプレーする。

ビーチ・サッカーをする若者たちから、金の卵が..

ブラジルには、オーリェイロという職業がある。全国を隈なく歩き、雑草が茂る空き地のサッカー場や、砂浜でビーチサッカーをしている15才未満の子供たちを見て回り、素質のある若者を見つけ出してスカウトする仕事に従事しているプロの男たちのことである。

そんな若者に出会うと、親に支度金を支給して連れ出し、都会のクラブチームに譲り渡す。ブラジル代表選手の大半が、このようなオーリェイロによって、スカウトされた選手たちである。

クラブチームのジュニアー部門は、プロへの登竜門である。都会のクラブは、常に志のある若者たちに門戸を開いており、毎日、数十名がテストを受けるために訪れる。中には、弁当だけをもって、数十キロを歩いて来る貧しい子供たちもいる。

このようにして、スカウトされた子供たちの多くは、ロクに学校にも通っていない。彼らは、採用された暁には、サッカー技術を修得するだけでなく、強制的に学校に通わされる。スポーツマンシップやフエアープレイ精神についても、徹底的に叩き込まれる。

ブラジルのプレーヤーにラフプレーをする選手が少ないことは、世界中で知られているが、クラブチームの指導者たちは、彼らを酒や煙草に手を出さず、規律正しいサッカー選手であるのみならず、社会人としても子供たちの模範になる人間になるように、育ててゆく。

それでも、17才になってAチームにピックアップされる選手は、50人に1人だという。それを見ても、ブラジル・サッカーの層の厚さが窺える。

私の友人で、ブラジル代表のカカーを育てたことで知られている、サンパウロFCのジュニアー・コーチ、アントニオ・ダ・シルバ氏は、日本のJリーグ(横浜フリューゲルス)で監督を務めた経験があるが、彼によると、日本の子供たちに対するサッカー指導法が、ブラジルとは根本的に違うことを指摘している。

日本の指導法:

1)     幼少の頃からサッカーシューズを履いて練習させる。

2)     練習で、体力づくりに費やする時間が長すぎる。例:グランド3周走や、ウサギ跳び、筋肉トレーニングなど。

3)     ボールに接触して個人技術を磨く時間が短い。

4)     子供の頃から、チームプレーを教える。

5)     年令やサッカー歴などを重要視して上下関係(先輩後輩)を作り、全体の規律を図ろうとする傾向がある。

一方、ブラジルの指導法は:

1) 10才までは、裸足でプレーさせる。

2) 体力づくりは、15才から本格的に始め、それまでは遊び気分で、自由に身体を動かさせる。

3) 1に技術、2に技術、徹底的にボール扱いの技術を指導する。

4) 子供には、チームプレーなど、形にはめた指導は一切行わず、ひたすら個人プレーを磨かせる。

5) 年令やサッカー歴は重視せず、出来る子供を常に引き立てる。

シルバ氏によると、日本人は手足が器用で、頭が良く、耐久力にも優れているので、指導法次第でもっともっと上達する筈だ、という。彼によると、日本のサッカー指導者たちのレベルが、ブラジルに比べて低くすぎる。特に、ボールを扱う技術を熟知し、指導できるコーチが皆無に近い。これは日本のサッカーにとって致命的で、その点を改善しない限り、日本のサッカーが、世界レベルに達するまでの道のりは遠いであろう、と指摘する。

そのためには、出来上がった外国人選手を連れてきて、目先の試合の勝利にこだわるのではなく、優れた外国人コーチ(ブラジル人が望ましい)に投資し、ボール扱いの基本からジュニアーたちに教えて育てる方法を採った方が、長い目で見た場合、日本のサッカーのレベルアップにつながるであろうと助言している。

また、どんなに優れた監督を招聘したとしても、日本の選手たちが、高度な戦略を実行する技術を持ち合わせていないので、結果を出すことは難しいであろう、という。

さらにシルバ氏は、彼が日本に滞在中に見た日本の選手たちは、プロサッカー選手としてのモラルが、ブラジル選手に比べて低いことを指摘している。酒をたしなみ、煙草を吸う節操のない選手が多く、リーグ戦中でも規律正しい生活をしない選手が多いことに、驚いたとコメントしている。

得点能力については、シュートは個人技のいわば集大成で、幼少時から徹底的に個人技を磨く練習を繰り返すことによってのみ習得できる感性であり、技術であるという。シルバ氏によると、日本のチームの得点能力の低さと決定力不足は、すなわち選手たちの個人技レベルの低さにあると指摘している。                                     (完)

mshoji について

兵庫県神戸市出身。1960年、県立神戸高校卒業後にブラジルに単身移住。サンパウロ・マッケンジー大学経営学部中退。貿易商社、百貨店でサラリーマンを経験後に独立。保険代理店、旅行社、和食レストランの経営を経て、現在は出版社を経営。ブラジル・サンパウロ州サントス沖グアルジャー島在住。趣味:ゴルフ、乗馬、社交ダンス、カラオケ、読書、料理。twitter:@marcosshoji
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(6) サッカー王国ブラジル・その強さの秘密」への7件のフィードバック

  1. Daison の発言:

    サッカー王国、ブラジル。
    その理由が良く分かりました。

    素足のサッカー少年、オーリェイロの存在、まったく知識がなかったもので勉強になりました。

    経済の発展にともない、最近はブラジル国内のチームも裕福になり、国内リーグも高いレベルになってきていると聞きます。

    国は豊かになっても、ハングリー精神はいつまでも忘れずに強いセレソンであり続けることを願います。

    特に2014年。
    今から楽しみですな。

    • mshoji の発言:

      ブラジル総人口の1/4に当たる、5千万人がファヴェーラで生活しているといいます。皮肉なようですが、貧富の差がなくなるにつれて、(日本のように)ハングリー精神も弱まり、その結果サッカーも弱くなるかも知れませんね。でもそれは、きっと、まだまだ先の話で、ブラジルはまだしばらくはサッカー王国として、世界に君臨しそうですね。

  2. Daison の発言:

    前回のコパは正直残念でした。
    次回に向けて、ネイマール、ガンソ、パトなどの若手が一層育つことを期待しています。

  3. khana の発言:

    ブラジルの子ども達の”将来の夢”というのはやはり”サッカー選手”が多いのでしょうか?
    (貧富関係なく)

    • mshoji の発言:

      コメントをありがとうございます。
      ブログにあるように:「国全体が熱烈なサッカーファンであるブラジルでは、肌の色に関係なく、男の子が描く最初の夢は、サッカー選手になることで、物心がついた男児に親が最初にプレゼントするのは、サッカーボールである。ヨチヨチ歩きでボールを追いかける息子を、父親は目を細めて見守る」これは貧富に関係なく、父親の夢でもあります。日本で言えば、将来、野球選手とサッカー選手になることを夢見る男の子たちを合計したのと同じくらいの比率だと思います。

      • khana の発言:

        ご返事ありがとうございます。私は今大学4年で、卒業論文としてブラジル社会とサッカーの関係について書いています。些細な知識でもいただけたら幸いです。
        (先日の質問に少し重なります・・・)サッカーをビッグドリームという位置づけで行う子どもたちもたくさんいると思うのですが、経済成長により新中間層が誕生したことで、比較的余裕のできた国民が増えてきたために、そのような位置づけでサッカーを行う子どもたちは減っているのでしょうか。

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